世の中には「天才」と呼ばれる人たちがいます。近年、国内で話題になっている人といえば、大リーガーの大谷翔平選手や、将棋棋士の藤井聡太さんなど、期待を上回る活躍ぶりは常に注目の的です。そんな「天才」と呼ばれる人たちの遺伝子は、やはり特殊なのでしょうか。行動遺伝学者の安藤寿康先生に、「天才」を生み出す遺伝子について聞きました。 ※中編〈子どもの学力に影響するのは「遺伝」と親が与える「教育環境」のどちらが大きい? 行動遺伝学者が回答〉から続く

MENU キーワードは「遺伝子配列」と「脳の配線」 名コーチとの出会いや早期からの取り組みが大事なのか 自己肯定感の高さや変化のしかたにも遺伝が影響!?

キーワードは「遺伝子配列」と「脳の配線」

――「天才」と呼ばれる人たちの遺伝子は明らかになっているのでしょうか。

 そもそも遺伝子とはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4種の塩基の配列の一つひとつを指し、私たち人間には30億もの膨大な塩基から作られる配列が存在しています。その配列が「AUU」(イソロイシンというアミノ酸になる)なのか「ACU」(トレオニンというアミノ酸になる)かなどが、一人ひとり違っていて、その違いが、さまざまな側面で個性となってあらわれます。そのような遺伝子の違いが生み出している現象をここでは「遺伝」と呼んでいます。

 例えば学力や知能に関する塩基で違いのある箇所は4000近くだということがわかっています。「天才」と呼ばれるような特殊な能力も、膨大な数の塩基の独特な組み合わせが生み出したものと考えられます。

 ただし、例えば大谷翔平選手の遺伝子を調べて「こういう配列が二刀流を生み出した」と言えるわけではありませんし、どんな遺伝子配列がどのように影響しているかというところまではわかりません。同じ二刀流でも、大谷翔平選手の遺伝子と、かつてメジャーリーグで活躍した二刀流の先駆者でもあるベーブ・ルースの遺伝子は、まったく違った組み合わせなのではないかと思います。

 そもそも、スポーツや芸術、学問のようなメジャーな分野で「天才」と呼ばれていなくても、その目で見れば片づけや掃除、料理やモノづくり、交通誘導のプロフェッショナル……、大谷選手と同じような天才はどの分野にもいますよね。

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神武春菜
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