――「普通」でなくてもいい、と思えるようになったのですね。

 そうですね。自閉スペクトラム症というと「ギフテッド(特別な才能のある子)なの?」と言われることもあるんですが、それを求めているわけでもありません。

 ただ、息子が成長して自分は多くの人と違う個性と持っていると気づいたときに、どんな選択をさせてあげられるかは重要だと思っています。選択肢を提示して「どれにする?」ではなくて、息子が「自分はこれをやりたい」「これをしていると心が落ち着く」と思えるものを見つけるまでサポートするのが、親の役目なんじゃないかな。

 好きなもの、楽しいと思えることが1つでも見つかれば、もうそれだけで十分だと思っているんです。

妊娠中に思い描いた「かっこいい母」にはなれなかった

――ご著書には、「私は強くてかっこいい母親になると思っていた」と書かれていました。でも実際には、「まったくそうはなれなかった」と書かれているのが印象的でした。

 私は元々努力型で、がんばることは全く苦じゃないんです。勉強もバンドも、全て努力で乗り越えてきました。だから仕事も子育ても必死でがんばればうまく行くと思っていたんです。でも子育てには「がんばる」が全然通用しない。そのことに衝撃を受けました。

チャットモンチーでベースを弾いたいた福岡さん(福岡さん提供写真)

 叱っても、言い聞かせても、伝わらない。「2歳児 子育て やり方」と検索しても、その回答は豆太には当てはまらない。そもそも、すぐに解決するものじゃないし、成果はなかなか見えるものじゃない。

 そのうち体の奥の方からマグマみたいなため息がわきだしてきて、酸欠で倒れるんじゃないかって思うほど息苦しくなってしまうんです。

 東京にいるころ、電車のなかで大騒ぎする子をみて「なぜ親は叱らないんだろう」って思っていたんです。でもいまなら、めちゃくちゃわかる。口先だけで怒っても、この年齢の子にはわからないんです。怒られたことの恐怖は残るんだけど、理解できてはいないんです。

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