安浪:そうですね。でもだからといって偏差値が上の学校を目指す勉強が悪い、ってことではないと思うんです。勉強が得意なことだって、それは絶対大事なことだと思うんです。ただ、勉強が得意で走り抜けた子をそのまま育てる土壌が日本には少ないかな、と思ってしまうんですよね。

矢萩:まさにその通りで、せっかく大学や大学院で専門的な学びをやっていても、それを直接生かせる企業って、ほとんどないのが現状です。せっかく今まで頑張ってきてこの分野では自信がある、というものがあっても、会社に入ったら、「その得意なものは分かりましたけれど、うちの会社ではこれをやってください」というパターンが多いですね。日本では学力面での能力を生かしきれるような土壌が社会においてまだまだ少ない、というのは非常に感じますね。

安浪:矢萩さんが考える、中学受験の勉強のなかで人生に役立つ基礎基本の勉強って、どのようなものになりますか?

矢萩:やはり基本は国語力だと思います。読み書きする力が一番基本なので。さらに細分化していくと、これからの時代は、たとえ書けなくても読めて意味がわかれば大丈夫というのは現実としてあります。普段の生活をするうえでは、とりあえず読めて意味がわかればそれほど困らないんです。ですから、どうしても書くのが苦手だったり、嫌だと子どもが言ったりしているなら、とりあえず読みと意味をしっかりやるとか。音読みと訓読みを両方覚えるのが苦手が子がいたら、とりあえず訓読みだけをしっかりやる。訓読みは日本語の意味と直結するので。そうするとすごくシンプルになってだいぶハードルは下がると思うんですよ。漢字テストの点数は少し下がってしまうかもしれませんが、受験の基盤にもなるし、それこそ人生の基盤にもなる部分です。ほかの教科でも同じですね。

安浪:算数ではなんだろうって考えてみると、まずは割合や商売といった生活と密着したところをわかっているといいと思いますね。「比べる量」とか「元にする量」という言葉自体はどうでもよくて、スーパーに行ったときに「20円引きと20%引きとどっちが得かな」というのがわかるのが、本当の算数力だと思うんですよね。ところが実際は食塩水の濃度の問題が解けても、食塩水から水を蒸発させたときに味が濃くなるということが実感としてわからない子が少なくないんです。もう少し算数的なところで言うと、2つ目は図形です。ルールがわかるとすごく面白い学びなので、図形はパズルとして楽しめたらいいと思いますね。3つ目はやはり文章題ですね。つるかめ算とかも仕組みがわかれば面白いんですが、それを考えるのが好きな子と嫌いな子にわかれる。好きな子にとっては最適な脳トレになると思うんです。数学でそれを使うかっていうと使わないんですが、特殊算の頭の使い方だったり、いろんな方向からものを考える力だったりというのは、社会に出たときにも何か別の形ですごく役に立つんだろうなということは強く思います。

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