大坂は全仏オープン1回戦で、世界63位のパトリシア・ティグ(ルーマニア)を6-4、7-6で下した(gettyimages)
大坂は全仏オープン1回戦で、世界63位のパトリシア・ティグ(ルーマニア)を6-4、7-6で下した(gettyimages)

 大坂の記者会見は国内外を問わず、人気がある。発言がウィットに富み、記者との掛け合いで笑いが起こることも多い。

 BLMに限らず、東京五輪・パラリンピック組織委員会会長だった森喜朗氏(83)の「女性蔑視」の放言、コロナ禍での五輪開催の是非、独裁政権のベラルーシの民主化など、あらゆる分野の質問に聡明に答える。

■不思議だった会見拒否

 今回、全仏での会見拒否騒動の口火を切ったツイートでも、「若いときから私を取材してくれている報道陣もいますし、大半とは友好的な関係を築いています」とつづっている。

 それだけに、唐突で一方通行的な会見拒否は不思議だった。

「会見に出るか、さもなくば罰金、という統括組織は選手の心の健康を無視しており、笑うしかありません。(全仏で払うことになる)高額な罰金が、心の健康維持のチャリティーに寄付されることを願っています」

 皮肉たっぷりの挑発的な文言は、感情が制御できていない。

 ツイッター全文を読んで、原因と思われる箇所を見つけた。

「アスリートの心の健康状態が無視されていると、記者会見を見たり、参加したりするたびに感じていました。幾度も同じ質問をされたり、私たちが疑念を抱く質問を受けたり」

 全仏の前哨戦だったマドリードとローマでの大会での大坂の記者会見の一問一答を改めて読んでみた。大坂は経験不足なクレーに苦手意識がある。赤土は球足が遅いため、得意の豪打が一発で決まりにくい。さらに不規則なバウンドに悩まされ、足をスライドさせるフットワークも技術が必要だ。前哨戦は1勝2敗。記者会見では繰り返しクレーへの順応を問われていた。

「不規則なバウンドは大変」「練習でイライラすることもある」「ここで明かすべきかわからないけれど、まだ自信はない」。そう認めつつ、ポジティブに考える姿勢が随所に見えた。

「(赤土の)サーフェスに順応するより、自分を信じること」
「学んでいる過程だから自分を追い込まないようにしている」

 マドリードで敗れた試合ではこう自賛していた。

「試合の結果を私はコントロールできないけれど、私の試合への向き合い方はできる。今日はすごくよくできたと思う」

■クレーへの苦手意識

 ここからは推測になる。クレーの苦手意識を自分の頭の中から追い出そうとしているのに、繰り返し「苦手」「弱点」だと記者会見で聞かれると、ネガティブな刷り込みをされてしまう。さらに自称「完璧主義者」で負けるのは大嫌い。結果が伴わない現実への自己嫌悪も加わり、全仏を前に、感情が制御できずにあふれ出したのではないか。

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広がらなかった「共感」