※写真はイメージです(Getty Images)
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 1年以上たった現在でも激しい戦闘が続く、ウクライナ戦争。すでに世界情勢に多大な影響を与えているが、その行く末はどうなるのか。対外的な戦争を行っている状況で、各国とも内政に問題を抱えている。特に注意しておきたいのがアメリカ国内の分断だ。フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏とジャーナリストの池上彰氏が対談。『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』(朝日新書)より一部を抜粋、再編集し、紹介する。

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池上彰 この先、この戦争はどうなっていくのか。ウクライナとしてはロシアを国内から追い出すまでは戦争を続ける。一方で、プーチン大統領にしてみれば、ドネツクやルハンスクなどウクライナ4州をロシア領として「併合」した以上、そこから撤退することはできない。

 アメリカも、この戦争から抜け出すことは難しい。ヨーロッパ諸国もロシアへの経済制裁をした結果、天然ガスが入ってこないなどさまざまな経済的打撃を受けている。

 結局、この戦争に勝者はいない。延々と、みんなが負ける負け戦が続く、そんな未来が来るのではないでしょうか。

エマニュエル・トッド この戦争が始まったとき、私は地政学の本を書き始めていました。そのとき世界は中国対アメリカという構図で見ることができると考えていました。しかし、アメリカの生産力がひじょうに弱まっていることや、中国も出生率がひじょうに低下していることから、その構図で世界を見るのは正しくないことに気づきました。

 私は焦点をロシアに移していきました。すると、ロシアは保守的ではありますが、たとえば乳幼児死亡率がいまはアメリカを下回るなど、社会としてある程度安定した国であることが見えてきました。

 ただ、人口は減少傾向にあり、ロシア的な帝国主義を世界に広めていくほどの勢力ではないことにも気づきました。そして中国も同様に出生率が低下しているので、これらの国がこの世界システムのなかで問題なのではないということに気づいたんですね。

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エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd) 歴史家、文化人類学者、人口学者。1951年フランス生まれ。家族制度や識字率、出生率に基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊、米国の金融危機、アラブの春、英国EU離脱などを予言。主な著書に『グローバリズム以後』(朝日新書)、『帝国以後』『経済幻想』(藤原書店)、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』『第三次世界大戦はもう始まっている』(文藝春秋)など。

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