プーチン大統領
プーチン大統領

 ウクライナ戦争を機に対立の深まるアメリカとロシア。2016年のアメリカ大統領選挙への介入を筆頭に、ロシアの政治介入とアメリカ国内の分裂に対する批判の声が上がっているが、フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏は「滑稽だ」という。その理由をジャーナリストの池上彰氏との対談をまとめた『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』(朝日新書)より一部を抜粋、再編集し、紹介する。

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池上彰 家族システムの違いに関連しますが、プーチン大統領がいわば文化的な、伝統的な家族観を大切にすることを訴えることによって、アメリカ国内での分裂がさらに促進される。プーチン大統領はそこまで狙っているんでしょうか。

 あるいは、こうやってウクライナ戦争が長引けば長引くほど、トランプ氏だけではなく、アメリカ大統領候補と目されてもいるフロリダ州知事のロン・デサンティス氏(共和党)も、このところ「ウクライナに対する支援をアメリカはやりすぎだ」というような言い方をしています。

 アメリカが分裂することによって、結局、ロシアが利益を得る。そんな構造が、いま起きつつあるように見えるのですが、いかがでしょうか。

エマニュエル・トッド そうですね。私がロシアを擁護しているというわけでは全くないということを、まずご理解いただきたいんです。

 つまり、フランスでは、ウクライナ戦争に関する一般的な見方があまりにも単一化されていて、私自身はいろんな意見の多様性や多元性、そしてその客観性というものを非常に擁護する立場なので、このような言い方をしているだけなんです。

 私自身、個人的にロシアで暮らすことはできません。私は完全な西洋人であって、政治も交代制がいいというわけで、必ずしもロシアを擁護しているというわけではないということをご理解いただきたいということです。

 それを踏まえたうえでですが、アメリカが、ロシアが介入してくると主張することが、たびたびあるわけですね。ロシアによるアメリカ政治システムへの介入や、たとえばトランプ大統領当選のときなども。選挙に関してさまざまな形でロシアが介入してきているとか言ったりすることがあるわけですね。

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エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd) 歴史家、文化人類学者、人口学者。1951年フランス生まれ。家族制度や識字率、出生率に基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊、米国の金融危機、アラブの春、英国EU離脱などを予言。主な著書に『グローバリズム以後』(朝日新書)、『帝国以後』『経済幻想』(藤原書店)、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』『第三次世界大戦はもう始まっている』(文藝春秋)など。

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アメリカは各国に介入している