日替わりの「香川ハモ定食」(手前)は高知の釜揚げしらすもたっぷりで600円。本日の「鹿肉のカレー」は550円。ほかに「尾道しまししタコライス」なども(撮影/門間新弥)
日替わりの「香川ハモ定食」(手前)は高知の釜揚げしらすもたっぷりで600円。本日の「鹿肉のカレー」は550円。ほかに「尾道しまししタコライス」なども(撮影/門間新弥)

 昨年10月、東京大学駒場IIキャンパスに開業した学食「食堂コマニ」。誰でも利用可能で、全国の選りすぐりの食材で丁寧に調理する“意識の高い”食堂だ。こうした「学内と地域を結ぶハブであり、価値更新の拠点」をコンセプトにした学食は、同じ国立の東京藝術大学にも登場している。AERA 2023年6月19日号の記事を紹介する。

【写真】東京藝術大学大学美術館の食堂の様子はこちら

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 東京藝術大学の上野キャンパスでは、2021年にオープンした「藝大食樂部(くらぶ)」が一つの実践の場だ。

 仕掛け人は22年に学長に就任した日比野克彦さん(64)。日比野さんは前任の美術学部長の時から、福祉や地域の社会課題を、アートの力で解決していくことに積極的に取り組んでいた。

 上野キャンパスで戦前から続いていた名物学食「大浦食堂」の店主が高齢により引退することになった際は、親しまれた場をいかに藝大らしくアップデートするかを考えた。

「SDGsが時代のキーワードになり、食の世界ではヴィーガン、ハラルという言葉が定着し、意識が高い学生も入ってくる。その流れを学食も取り入れる必要を感じていました」

食堂は「東京藝術大学大学美術館」の1階(撮影/門間新弥)
食堂は「東京藝術大学大学美術館」の1階(撮影/門間新弥)

■長距離バスを有効活用

 リニューアル事業者を募集した際は、「食に対する関心を喚起する場」「外部との接点になる場」という要望を掲げた。それに応えたのが、日本各地の農畜水産物のプロモーション実績があり、JAや漁協とのつながりがあった「アップクオリティ」だった。同社代表の泉川大さん(44)は「コロナが一段落したこれからは産地でのイベントも仕掛けたい」と意欲的だ。

 アップクオリティでは、食材の運搬に長距離バスの荷物室を使い、全国からバスが集まる東京ディズニーランドを集荷ハブにして、中間経費を削減するシステムを編み出している。食材原価と同時に、環境負荷も抑制する工夫だ。そのおかげで、藝大食樂部のメニューは、日替わりの定食が600円、カレーが550円と、学生のお財布にもやさしい。

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