フィナーレでは、氷にひざまずきスケーターたちに拍手。さらに音楽アーティストたちへも感謝のポーズ。全員で作り上げたことをアピールした(撮影/写真映像部・東川哲也)
フィナーレでは、氷にひざまずきスケーターたちに拍手。さらに音楽アーティストたちへも感謝のポーズ。全員で作り上げたことをアピールした(撮影/写真映像部・東川哲也)

 国内外のトップスケーターが集うアイスショー「ファンタジー・オン・アイス」が5月26日、千葉・幕張で開幕した。プロに転向した羽生結弦は大トリで登場し、会場を魅了した。AERA 2023年6月12日号の記事を紹介する。

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 ファンタジー・オン・アイスは、日本のトップアーティストのライブとのコラボレーションが魅力のアイスショー。毎年、名だたるゲストが名曲を熱唱するなか、スケーターの魂と一体化するプログラムを披露してくれる。

 まずオープニングは、高い歌唱力で知られる北海道出身の福原みほが登場。「ライジング・ハート」のノリの良い歌声に合わせて、カラフルなノースリーブの衣装に身を包んだスケーターが登場する。羽生は、登場するやいなや4回転トウループを披露。初日こそステップアウトしたが、2日目、3日目は気合十分で、ピシリと決めてみせた。

■会場を揺らす大歓声

 総演出は羽生の競技プログラムを振り付けてきたデイビッド・ウィルソンが担当。演技の流れと曲との一体感を大切にする振付師だ。オープニングは、かっちりと決められた動きを揃えるのではなく、選手同士が手を繋いだり目線をあわせたりして、楽しみながら演技するシーンが印象的。羽生は盟友ハビエル・フェルナンデス(スペイン)と肩を組み、柔らかい笑顔が漏れる。かつてトロントで共に練習してきた日々を彷彿とさせるような、心温まるひとときだった。

 やはり一番の見どころは、大トリで登場する羽生のソロナンバー。今年はDA PUMPのISSA&KIMIとの共演だ。まずISSAとKIMIがライブステージ上に現れると、次に羽生がリンク上に。うす灯りのなか足慣らしをしている様子を、観客は息をのみ込んで見守る。すると、トウアラビアンからのキャメルスピンという得意技で高速スピンを回っている最中に、いきなり「if…」の曲がスタート。誰もが足慣らしだと思いこんで「いまか、いまか」と本番を待つ気持ちを見事に裏切ってくれる、度肝を抜いた演出だった。

 羽生は、黒と白のジャケット風の衣装。これはDA PUMPのミュージックビデオをオマージュしたもの。しかしMVのしなやかなダンスを想像していると、これまた想像の上をいく演技だった。メインボーカルのISSAの歌声に合わせた美しい滑りと、ラップを被せるKIMIの音を拾った切れ味の良いダンス。その二つが複雑に組み合わされているのだ。滑り、止まって演技し、また滑り出す、ということの繰り返しを自然に行えるのは、高いスケート技術があってこそ。スケート本来のなめらかな魅力と、陸上でのダンスの緻密さが、見事にコラボレーションしたナンバーだった。

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