さらに今は、自己責任論によって「頑張る」ことが素晴らしいという価値観が強くある。頑張ることは大切だが、頑張りたくても頑張ることができない人がいる。頑張っている人も挫(くじ)ける時がある。その時に共同体があれば、暴力を抑止する力になると話す。

「共同体をつくることは大変ですが、SNSでつながるだけでもいいと思います。そのつながりは強くなくてもいい。自分が安心できる、大切にしたい人とつながりを持つことは重要です」(同)

 健全な民主主義を取り戻せるかどうかは、有権者にもかかっている。前出の安田さんは、「声の力を取り戻すことが大切」と言う。

「政治に対して声を届けることです。民主主義は根気がいるもので、声を上げるのは容易なことではなく、バッシングを受けるリスクもあります。しかし、何かおかしい、理不尽だと思った時、言葉やデモ、シットインなどで声を上げることは決して無駄ではありません」

 御厨名誉教授は、「私たち一人一人の自覚が問われている」と話した。

「政治は本来、国民にとって希望であるべきです。それが今は向こう側にあるため、攻撃してもいいという空気にもなっています」

 政治を私たちの手に取り戻すには、言葉しかない。暴力で言論を封じることだけはよくないと、徹底して言い続けることだという。

 そしてこう続ける。

「そのためには、私たち一人一人が自覚することが大切です。民主主義は様々な主張がぶつかって面倒くさい。しかし、『面倒くさい』と言っていてはだめです。面倒くさいことを引き受けて初めて、言論による政治を復活させることになります」

 根は深い。だが、その根を絶つために、出口を探し続けなくてはならない。歴史の針を逆回転させないために。(編集部・野村昌二)

AERA 2023年5月22日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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