AERA 2023年4月24日号より
AERA 2023年4月24日号より

 3月末、岸田政権は「異次元の少子化対策」のタタキ台を公表した。児童手当や育児休業の拡充、男性育休の推進などが盛り込まれた。安心して子どもを産み、育てる、「希望」が叶う未来は来るのか。AERA 2023年4月24日号の記事を紹介する。

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 元内閣府審議官で、少子化や人口問題にも取り組んできた前川守さんは、異次元の少子化対策は全て必要とした上で、「人口減少社会を前提とした対策が重要」と指摘。異次元の少子化対策が成功し出生数が上がったとしても、その子どもたちが働き出すのは約20年後だ。そのためには「少子化適応策」と「人口回復策」──の二つを同時に二正面で行うことが重要だと話す。

「当面の対策として『少子化適応策』です。それには就業余力のある女性や高齢者を活用していくことが重要で、それを阻害している『年収130万円の壁』や給与がある高齢者の年金が減額される『在職老齢年金』の改善が必要。あわせて、ITやデータサイエンスなどの能力を身につけるためリスキリングなど学び直しの対策を取ることも大切です」(前川さん)

 2点目の「人口回復策」は将来に効果が表れる対策だ。「結婚を望む者」や「子どもを望む者」が、その希望を実現できるよう支援することだ。

 国立社会保障・人口問題研究所の調査では、18~34歳の未婚者の結婚希望は8割を超えるが、生涯未婚率は男性26%、女性16%。夫婦が理想とする子どもの数は2.3人だが、完結出生児数(夫婦が生涯に持つ子ども数)は1.9人。この希望と現実の差を埋めるには、安定した雇用や収人の確保といった経済的問題と、長時間労働など社会的問題の両方を解決していかなければいけないという。

 課題は財源の裏付けだ。過去の少子化対策が不十分だったのも、財源不足が一因とも指摘される。今回政府は、水面下で、社会保険料に上乗せして財源を確保する検討に入った。だが、保険料への上乗せは増税と同じで、高齢者や子育てをしない人などからの反発も予想される。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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