(c)2023 GIFT Official
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 映像、音楽、ダンスなど一流のアーティストが結集したことで、エクセレントな融合芸術としての面も見せた。人気ユニット「Perfume」などの振り付けで知られるMIKIKOさんによる総合演出に加え、映像は最新の技術を駆使した作品に挑むライゾマティクスが担当。東京フィルハーモニー交響楽団による生演奏に加えて、音楽監督を務める武部聡志さんによる生バンド。豪華すぎる、そして才気ある集団が一つにまとまったのも、羽生さんのカリスマ性によるものにほかならない。

「ドームという会場だからできる演出と、名だたるメンバーが集まってくれたからこそできた総合エンターテインメントができたと実感しています。もちろん課題はありますが、今日のこのGIFTという公演は1回きりで、一期一会の演技を一つずつできたことに関しては誇りを感じています。みなさんの中にほんの1ピースでもいいので記憶に残ってくださったらうれしいと思います」

 武部さんも、公演後にSNSでこう吐露した。

「1夜限り東京ドームに張られた氷上をたった1人で滑り切る体力、気力。そして渾身(こんしん)の滑りに胸が震え、ピアノを弾きながら涙が溢(あふ)れた」

 3万5千人の観衆、3万人のライブビューイング、そしてライブ配信、世界中が彼の挑戦から勇気をもらった。

「正直この会場に入った時は自分ってなんてちっぽけな人間なんだろうって。ただ3万5千人の方々や演出してくださった皆さんの力を借りたからこそ、ちっぽけな人間だとしても色々な力を届けられたかな」

 羽生さんが伝えたかったもの。それは、受け手によって色が変わる。羽生さん自身のこれまでの葛藤を共体験していくことで、自分自身の心の苦しみから解放されていく場所だった。そして多彩なアーティストのコラボレーションによる総合芸術に酔いしれる舞台でもあり、「アスリート羽生」のチャレンジを応援する試合でもあった。皆が求めていたすべてのプレゼントが詰め込まれた、夢のような3時間だった。(ライター・野口美恵)

AERA 2023年3月20日号