北海道当別町のベビーボックス。玄関は24時間無施錠で、室温は20度に保たれている。坂本さんは養育が困難な赤ちゃんの預け入れを予想している(撮影/三宅玲子)
北海道当別町のベビーボックス。玄関は24時間無施錠で、室温は20度に保たれている。坂本さんは養育が困難な赤ちゃんの預け入れを予想している(撮影/三宅玲子)

 自分で育てることができない赤ちゃんを匿名で預ける「赤ちゃんポスト」。長らく本のみだったが昨年、北海道で開設。東京でも開設に向けた動きがある。AERA2023年3月6日号の記事を紹介する。

【国内に設置・計画されている「赤ちゃんポスト」はこちら】

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「吹雪になるとホワイトアウトして、車が進めないことはわりにあるんですよ」

 とドライバーが言う。札幌市から電車で40分。JR当別駅(北海道当別町)で下車し乗り込んだタクシーは、見渡す限り雪一色の平原を疾走すること5分、民家の前で止まった。玄関に「Baby BOX」と書かれた看板のあるこの家は、日本で2番目に誕生した赤ちゃんポストだ。開設した坂本志麻さん(48)は、獣医師で公認心理師の資格を持つ。

 赤ちゃんポストとは、自分で育てることのできない赤ちゃんを匿名で預け入れることのできる施設の総称だ。

 坂本さんがベビーボックスの運営開始をネット上で発表したのは昨年5月。直後に筆者が当別町と北海道庁に電話で取材した際、担当者はいずれも「事前に何も聞いていない。調査はこれから」と困惑を隠さなかった。同じタイミングで坂本さんに取材すると「法律がないので届け出る義務はない」「行政に事前に相談したために計画をつぶされた例を知っているから」。全て計算ずくだと言いたげだった。

■万が一外に置かれたら

 道庁が案じているのは極寒の環境だ。ベビーボックスは坂本さんの自宅玄関を入り、すぐ左に設けられている。預け入れがあると坂本さんの携帯に通知されるセンサーがセットしてある。

 まだ預け入れはないものの、「預け入れにきた人が万一家の外に置いて立ち去るようなことになったら、低体温症で死亡する危険性がある」と道庁子ども子育て支援課主幹の小助川文治さんは懸念する。赤ちゃんに医療が必要な場合に備えた医療機関との連携、警察、預け入れられた赤ちゃんの保護をする児童相談所との事前協議はされていない。道庁は坂本さんに自粛要請を毎月文書で通知。その数は1月末までに13通に上る。

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