2022年10月8日、爆発したクリミア橋(AP/アフロ)
2022年10月8日、爆発したクリミア橋(AP/アフロ)

 2月24日で1年を迎えるウクライナ戦争。この戦いはすでに、世界戦争に突入しているという。世界でいま、何が起きているのか。歴史人口学者のエマニュエル・トッドさんとジャーナリストの池上彰さんが意見を交わした。AERA 2023年2月27日号の記事を紹介する。

【写真】エマニュエル・トッドさんと池上彰さん

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池上:トッドさんは昨年から「第3次世界大戦はもう始まっている」とおっしゃっています。

トッド:ロシアとウクライナ二国間のこの戦争が、世界大戦に発展するのではと心配している人は多いと思います。でも、もうすでに米国を中心とする西側とロシアの間で展開されている世界戦争、という段階に入っていると見ています。

 そしてそれは「まず経済面から始まった」とも言えると思います。ウクライナへの爆撃で市民の多くが殺されていることはもちろん、まさに戦争という状態なのですが、欧州や米国がロシアという国を経済的に、最終的には社会的にもつぶすという目的で始めた経済制裁もまた、戦争の一端であるわけです。

 この経済制裁に、ロシアは耐えています。いまだにロシアの経済が安定していることは、西側が非常に驚いている点だと思います。これはなぜなのか。

 実は経済のグローバリゼーションが進んでいく中で、「生産よりも消費する国=貿易赤字の国」と「消費よりも生産する国=貿易黒字の国」との分岐がますます進んでいるんです。ロシアはインドや中国とともにまさに後者の代表で、天然ガスや安くて高性能な兵器、原発や農産物を世界市場に供給する「産業大国」であり続けています。

 一方で、前者の貿易赤字の国とは米国、英国、フランスなどです。財の輸入大国としてグローバリゼーションの中で自国の産業基盤を失ってきている。つまり互いに科している経済制裁は、消費に特化したこれらの国のほうにむしろマイナスに効いてくる可能性があるわけです。

■米国は生産力で弱体化

 一種の神話的な立場だった「経済大国アメリカ」は、今は生産力の点で非常に弱体化してきています。1945年時点で米国は世界の工業生産の約半分を占めていましたが、今は違います。ウクライナ戦争はロシアにとって死活問題であると同時に、米国にも大問題なのです。

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