米国の生産力でとくに問題となってくるのが「兵器の生産力」です。この先、ウクライナ戦争が長期化したとき、工業生産力の低下する中でウクライナへの軍需品の供給が続けられるのか。むしろロシアの兵器生産力のほうが上回っていくのではないか。そこは西側としては心配な点でしょう。

 ただ、それでも米国はこの戦争から抜け出せないのではないか、とも言えると思います。米国がこの戦争から抜ける、それは米国にとって「ウクライナへ供給する兵器の生産力が追いつかなかった」という点で、「負け」を意味するからです。

池上:その世界大戦に巻き込まれた形のウクライナですが、トッドさんは戦争が始まる前の段階で、ウクライナは破綻国家であり、国家としての体をなしていないとおっしゃっていました。ただ、戦争が始まり、そのまっただ中で政府の汚職高官が追放されるなど汚職撲滅の動きもあるようです。国としてのまとまりが全くなかったウクライナが、ロシアの攻撃で自分たちの土地を守らなければならなくなったという、きわめて皮肉な形ではありますが、民族意識が深まってきた。この戦争をきっかけに国家として成立しつつあるようにも見えるのですが。

トッド:そのとおりだと思います。この戦争によって国家意識、国民意識が強化されている面はあるでしょう。戦争前は、私はウクライナの国家意識がどれほど強いのか疑問に思っていたのですが、軍事的に非常に耐えている姿を見て、その意識が強くなっていると認めるようになりました。

■ポーランドが参戦か

 ただ、ウクライナにおけるロシア語圏は、この戦争によって崩壊しつつあるのではとも思っています。ロシア語圏にいる中流階級がどんどん国外に流出しているからです。中流階級がいなくなった国は崩壊していく傾向があります。国家意識、国民意識というのはウクライナ語圏で強化された、と言えるのではないかと思います。

池上:ウクライナ東部、つまりロシア語を話す人たちがいるところでは、どんどんその人たちがいなくなっている。一方で、とくにリビウなどかつてのポーランドの支配地域だったところは、どんどんポーランドに寄っていく。そして真ん中のキーウの辺りがいわゆる「小ロシア」という形になるというふうに、ウクライナが結果的に三つに分裂していく未来も見えてくる気がするんですが。

トッド:ウクライナの将来についてはまだ見えにくいところがありますが、仮説としてたしかに、ウクライナが分断される状況もあり得ると思います。

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