イヤな気分をフラットにする「処方箋」(イラスト:サヲリブラウン)
イヤな気分をフラットにする「処方箋」(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 イヤ~なことがあったら、どうしてます?

 ひとことで「嫌なこと」と言っても、理由は千差万別。誰かに不愉快なことを言われたりされたりしたときには、不快感に怒りや悲しみが付帯しているため、発散や癒やしが必要になります。私の場合は長風呂をしたり、整体に行ったりが有効。悲しみの分量が多いときは、人の手で慰めてもらうのが一番です。

 大きな失敗をしてしまったとき、つまり後悔の成分が多いときは、整体中にネガティブな考えが巡ってしまうこともあります。こういうときは、寝るに限る。強制的に意識をオフにしてしまうのです。

 さて、それ以外にもイヤ~な気分になるときがあります。言い表し難い嫌な空気の場所に行ってしまったり、なにをされたわけでもないけれど、呼吸がしづらい相手と会ってしまったりしたときです。こういうときって、ひきずるんですよね。私に霊感はありませんが、経験が育んだ第六感はあるような気がします。

 私の第六感が、「なんだかイヤ~」となったとき、いままでは部屋の空気を入れ替えてお香を焚いたり、ハッカ油を垂らした湯船につかったりしていました。

 先日、そこに「音楽配信サービスで般若心経を聴く」スタイルが加わりました。お経も音楽感覚でサブスクの時代です。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 仏教徒以外は抵抗があるかもしれません。宗派によっては般若心経を唱えませんし、万人に効くとは言い難い。しかし、私には効くのです。自分でもびっくり。心が落ち着いて、不快感が少しずつ排出されていくよう。それでもイマイチな場合は、首の後ろに湿布を貼ります。スーッとしてとても気持ちがよい。

 どんなに真面目に生きていても、自分に落ち度がないまま、明確な理由もなく嫌な気分になることってある。だからこそ、心をフラットにする処方箋をもっておくのは、明日をつつがなく迎えるのに有効です。私は下戸なので、お酒で気を紛らわすわけにもいきませんし。

 気分転換の方法を複数持っておくと、自己肯定感を不必要に下げたり、周囲に心配をかけたりせずに済みます。それこそが、中高年に不可欠な要素だと思うのですよ。

 だって、我々は思春期並みにホルモンバランスの影響を受けるんだもの。無理やり元気を出す以外の方法を知らないと、倒れちゃいますからね。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2023年2月27日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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