あらき・げん/1964年生まれ。東京大学文学部仏文科卒。朝日新聞に8年半在籍。社会部記者などを経験したのち退社して作家活動に入る。作品に『骨ん中』『ちょんまげぷりん』『オケ老人!』『大脱走』『独裁者ですが、なにか?』『残業禁止』などがある(photo 写真映像部・加藤夏子)
あらき・げん/1964年生まれ。東京大学文学部仏文科卒。朝日新聞に8年半在籍。社会部記者などを経験したのち退社して作家活動に入る。作品に『骨ん中』『ちょんまげぷりん』『オケ老人!』『大脱走』『独裁者ですが、なにか?』『残業禁止』などがある(photo 写真映像部・加藤夏子)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】荒木源さんの著書『PD 検察の犬たち』はこちら

『PD 検察の犬たち』は、荒木源さんの著書。東日新聞社役員の西岡は、若手記者だった頃に地検特捜部担当として折原に指導を受けていた。折原は人の懐に入り込み、数々のスクープを放つ伝説的な記者。彼らは一連のゼネコン疑獄報道の果てに巨悪に辿り着くが、栄華も長くは続かない。折原はある出来事を機に記者職を追われ、彼を起点に空前の東日スキャンダルが発覚。物語は二転三転し思いがけない結末を迎える。荒木さんに、同書にかける思いを聞いた。

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「東京地検特捜部」といえば、疑獄事件が起きるたびに注目される検察の花形部門である。そして彼らの仕事ぶりを我々に伝えるのは、メディアの地検特捜部担当の記者たちだ。荒木源さん(58)はかつて朝日新聞社の地検特捜部担当記者として「ゼネコン汚職事件」(1993-94年)を追いかけた経験を持つ。その後エンターテインメント作家に転身したが、いつか自分の経験を作品にしてみたいと思い続けてきた。執筆開始から2年をかけて本作が完成した。

「新聞というメディアが全盛期だった時代に私にとっても大きな事件を追いかけて1面の抜き合いをやっていた時期がとても印象深く、今思えば大したことがないのに浮かれて盛り上がっていたことが印象的だったのです。その時代をただ振り返るのではなく、小説としておもしろいものにしたいと考えました。今や新聞業界は傾き、新聞記者はカッコいい職業ではありません。しかしそこに一発逆転を夢見る人物を登場させ、新聞社内の反乱軍をヒーローにするとおもしろいエンターテインメントにできそうだというアイデアが浮かびました」

 物語はある汚職事件が起きた過去と現在とが交錯しながら進む。常にスクープを放つが危うい世界に踏み込むこともいとわない東日新聞の敏腕記者・折原。一方正統派の若手記者・西岡。事件報道で大きな成果を上げた東日新聞だが、西岡が役員を務める今ではネットに押され経営が傾いている。不祥事で第一線を外れながらも紙の「新聞」にこだわる折原の「仕掛け」に、若手記者たちの追跡が始まる。上から圧力をかけられた彼らが武器として用いたのは社内のネット部門だった……。

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