photo (c)JyaJya Films
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 ただ映画に網谷さんが「なぜその決意をしたか」の答えは出てきません。きっと理由はひとつではないし、彼と「ゲイであることで養子縁組の動機を誤解する人がいるかも」という話をしていたとき、彼が「そういう人は僕がいくら理由を言っても『でもさ』『結局さ』と言ってくる。僕はその人たちのために自分の感情に嘘はつきたくない」と言ったんです。それを聞いてそのとおりだな、映画も見る人に預けよう、と思いました。

島田隆一(監督)しまだ・りゅういち/1981年、東京都生まれ。ドキュメンタリー映画「ドコニモイケナイ」(2012年)、福島県広野町を舞台とした「春を告げる町」(20年)を監督。日本映画大学専任講師。全国順次公開中(photo 本人提供)
島田隆一(監督)しまだ・りゅういち/1981年、東京都生まれ。ドキュメンタリー映画「ドコニモイケナイ」(2012年)、福島県広野町を舞台とした「春を告げる町」(20年)を監督。日本映画大学専任講師。全国順次公開中(photo 本人提供)

 いきなり20歳の息子を持った網谷さんは、いまも試行錯誤の連続だと思います。渉くんの部屋の壁に穴が開いているシーンが出てきますが、思春期の息子を持つ親御さんなら「あるある」と共感されるのでは。彼らの悩みや葛藤は決して特別ではない。我々誰もに少しずつ関係し、影響しているのだと感じていただければ嬉しいです。(取材/文・中村千晶)

AERA 2023年2月20日号