極めて稀有で、新たな家族の可能性を映した貴重な作品だ。島田さんによると網谷さんは映画「パーフェクトワールド」(1993年)や「レオン」(94年)の世界に共感していたそう。現実でそれをするのは並大抵ではないだろうが、網谷さんの両親が渉くんを自然に受け入れる様子に胸が熱くなる photo (c)JyaJya Films
極めて稀有で、新たな家族の可能性を映した貴重な作品だ。島田さんによると網谷さんは映画「パーフェクトワールド」(1993年)や「レオン」(94年)の世界に共感していたそう。現実でそれをするのは並大抵ではないだろうが、網谷さんの両親が渉くんを自然に受け入れる様子に胸が熱くなる photo (c)JyaJya Films

 網谷勇気(40)は児童養護施設の子どもたちの自立を支援する団体で働いている。彼は数年前から支援してきた20歳の渉(わたる)と養子縁組を決意する。ゲイである網谷と家族を知らない渉。手探りのなか、二人の新生活がはじまった──。連載「シネマ×SDGs」の40回目は、新しい家族のかたちを静かにみつめたドキュメンタリー「二十歳の息子」の島田隆一監督に話を聞いた。

【写真】ドキュメンタリー「二十歳の息子」の場面カットはこちら(全5枚)

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photo (c)JyaJya Films
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 網谷さんとは15年ほど前に飲み会で知り合い、交流を続けてきました。彼が働く児童養護施設の子どもたちの自立支援団体「ブリッジフォースマイル」の話を聞くうちに、僕も子どもたちのおかれた状況や問題に興味を持つようになった。ただ対象が未成年者なので、カメラを向けることが難しい。そんななかで彼が2018年に渉くんとの養子縁組を決めて「撮ってみる?」と言ってくれました。

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 映画の中で渉くん自身が語りますが、彼は両親の顔を知りません。幼少期から児童養護施設に預けられ、一時期は里親から虐待を受けていた。本人は礼儀正しくフレンドリーな青年ですが、悪い仲間とつるむようになり最終的に事件を起こして起訴されてしまう。網谷さんは「こいつに生きていてほしい、と思うんだよね」と言いますが、職員として関わっていたときから「彼の居場所を作りたい」という思いがあったのだと思います。

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