勉強も仕事も深夜に宿る特別なパワー(イラスト:サヲリブラウン)
勉強も仕事も深夜に宿る特別なパワー(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 夜に書いたラブレターは、翌朝に読み直してから出したほうがよい。

 私が若かりし頃に、よく言われていた言説です。雑誌などにも書かれていたっけ。

 夜、特に深夜は普段とテンションが異なるため、一生懸命したためた文章に、熱がこもりすぎる。それを翌朝読むと、ぎょっとするほどひとりよがりだったり、暑苦しかったり、不適切な勢いと内容に仕上がっている場合が少なくない、ということでしょう。なるほどねえ。

 あいにく、私には恋焦がれた相手にラブレターを書き綴った経験がないもので(ほとんどの人がそうではなかろうか?)、この教えがこれまで役立ったことはございません。

 深夜に書いた日記を翌日読んで、己の自己陶酔っぷりに大笑いしたことは何度もございます。メールも危険ですよね。出す前に保存して、1、2時間してから送ったほうが、確実に後悔しないで済む。

 カッとなったら態度に出すまえに六つ数えたらよい、というアンガーマネジメントの教えを聞いたことがあります。メールを寝かせるのは、これにも似ていますね。衝動的に行動しても、よい結果には結びつかないってことだ。

 さて、先日のこと。執筆に大きなエネルギーが必要な原稿を徹夜で書き上げ、朝8時の太陽を浴びながら思ったこと。私のエネルギー、確実に深夜に増大する傾向がある!

 私は夜、特に深夜に集中力が増す性質です。1万字以上の原稿など、頭脳のフル稼働が必要な仕事は特にそう。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 昼間は時間が足りないのではなく、集中が続かないのです。できるのは、文章全体の構成を考えることくらい。

 深夜には、特別な力が出るとしか思えません。勇気が必要なラブレターを深夜にしたためる人が多かったのは、ミッドナイトマジックに頼りたかったからかしら。

 でもって、ここからが肝心な話。深夜の私が出す馬力は非常に頼もしいけれど、精度は低い! まさにラブレター。翌日以降の加筆修正が必須となります。

 じゃあ最初から昼間にやりなさいよと言うなかれ。土台の基礎工事にはパワーが必要で、そのパワーは深夜にしか出ないのだもの。

 勉強もそうなのでしょうね。夜に集中して、朝に細かく復習をしたら、私も志望校に合格できたかも!?

 受験生のみなさん、体に気を付けて頑張ってね!

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2023年1月30日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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