批評家・杉田俊介さん(48)(すぎた・しゅんすけ)/1975年生まれ。著書に『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か』(集英社新書)など。「対抗言論」編集委員(photo 本人提供)
批評家・杉田俊介さん(48)(すぎた・しゅんすけ)/1975年生まれ。著書に『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か』(集英社新書)など。「対抗言論」編集委員(photo 本人提供)

■非常に反時代的な人間

――山上被告はツイッター、加藤元死刑囚もネット上でそれぞれ雄弁に発信していますが、相違はありますか。

山上被告は非常に反時代的な人間です。ツイッターでもフォロワー数は極端に少ない。情報収集ツールとして、あるいは自分の考えをまとめるために使っているだけで、誰かとつながろうとする努力の形跡が見られません。これは現代の主流とはかなり違う感じがします。加藤元死刑囚の場合、本音の人間関係が築けると考えたネット掲示板に希望を託し、救いを求めた。ネオリベ的な自己責任論に苦しめられたけど、そこから逃れようともがき、他者との連帯や、承認される希望みたいなものが残っていた。そういう加藤元死刑囚の00年代の感覚は山上被告からは全く消えています。誰も決して自分を救ってはくれないし、自分の問題は自分で処理するしかない。加藤元死刑囚の苦しみがより過酷になってしまった状態が山上被告なのかなと思います。

■英雄視して目をそらす

――山上被告は、犯行時の年齢が加藤元死刑囚よりも16歳上である分、人生経験を積んで達観した面もあるのでしょうか。

 加藤元死刑囚の場合、まだ20代で若かったけど、山上被告はさらに20年近く生きて耐えてきたがゆえに鋼鉄のような意志を持たざるを得なかったところに違いがあると思います。ストイックですよね。山上被告の場合、旧統一教会をめぐって彼が負った状況があまりにもひどすぎるのだと思います。映画化された漫画『鬼滅の刃』を山上被告の事件で思い出しました。人間たちが幸せに生きているところを鬼が襲ってきて、家族の誰かが鬼になってしまう話です。あの作品の鬼たちの組織は、どこかカルト宗教のようにも読めます。

――山上被告の場合、母親が鬼化してしまった?

そうですね。『鬼滅の刃』は鬼になった父母に殺された、DV被害の子どもたちの話とも取れるんです。これは宗教2世の境遇にも重なります。家族という領域の中にも虐待が侵食し、家族すらあてにならない。むしろ家族こそが自分の人生のマイナスのスタートの理由である、といった感覚がある程度共有されているからこそ、旧統一教会の問題がひとごとに思えないという面もある。旧統一教会という特殊なカルトの問題ではなく、現在の社会課題を凝縮した形で体現しているのが「旧統一教会問題」であるという視点が不可欠です。

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