AERA 2023年1月2ー9日合併号より
AERA 2023年1月2ー9日合併号より

 人手不足という地方の課題と、繋がりが持ちにくいという都市の課題。おてつたびは、都市と地方双方の課題解決につながる取り組みでもあります。

 紹介する10人に共通しているのは「量」より「質」に着眼している点です。個人の問題意識から始まり、社会という普遍的な視点も意識しながら、未来へのビジョンを持って地に足を着けて取り組んでいます。

 總山(ふさやま)萌さん(23)もそんな一人。コミュニティナースを育成・普及する「コミュニティナースカンパニー」のマネージャーです。

 看護は病院での医療行為のイメージですが、コミュニティナースは地域の日常の中でウェルビーイング、つまり住民の心と身体の健康と安心をサポートする人材です。16年にスタートして600人近くが養成講座を受け、全国で活動しています。

 一人一人の暮らしや人生を支えることを考えた時、コミュニティナースのような存在は重要です。中でも總山さんの魅力は突破力。看護学生時代に出合ったコミュニティナースを多くの人に伝えたいと全国1千の看護学校にコミュニティナースの本を届けるクラウドファンディングを始めました。「伝えたい」「知ってほしい」といった気持ちはつい独りよがりになりがちですが、看護師のキャリアの選択肢を広げたいという相手の立場に立った発信に共感が広がり、目標金額を達成しました。

 山口県萩市でゲストハウスを経営する塩満(しおみつ)直弘さん(38)が20年8月、JR山陰線の無人の阿川駅(下関市)の敷地内にJR西日本と共同でつくった商業施設が「Agawa」です。

 特別鉄道好きなわけではないという塩満さんが意識したのは、駅を広場として再定義すること。田園の中に佇む駅の前にガラス張りの透明の建物を建て、誰もが過ごせる駅の特性が発揮される空間にしました。ビールを飲んで気持ちよくなり、汽車を一本乗り過ごす人もいるそうです。

 30人程度だった阿川駅の1日の利用者は、200人に上るようになりました。全国のローカル線の利用者が減少する中では珍しいことです。Agawaの取り組みは、ローカル線再生のヒントにもなります。

 こうして次世代の挑戦を見ると「イノベーションは辺境から」という言葉を実感します。

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