北京で新型コロナウイルス対策の規制に抗議して白い紙を掲げる人たち=2022年11月27日(photo アフロ)
北京で新型コロナウイルス対策の規制に抗議して白い紙を掲げる人たち=2022年11月27日(photo アフロ)

 中国の厳しすぎる新型コロナウイルス対策が今月、大幅に緩められた。極端な変化によって、市民はウィズコロナの世界に放り出された状態だ。2022年12月26日号の記事を紹介する。

【写真】北京市内の病院の前にできた行列

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 中国東北部の遼寧省瀋陽で12月12日、会社勤めの40代の中国人男性は激しい頭痛と喉の痛みにおそわれていた。コロナに感染したことを確信し、病院に向かった彼を待っていたのは職員のこんな言葉だった。 

「たとえ陽性でも心配しなくていい。風邪薬を飲んで、水をたくさん飲みながら3、4日家で寝たら治る。もし症状が重くなったら、また来て」 

 検査も診察もしてもらえず、8人ほどの患者とともに病院を追い出されたという。知人である男性からてんまつを聞き、隔世の感を禁じえなかった。 

 中国では大規模なPCR検査で陽性者を見つけ出し、徹底的に隔離することで、感染拡大を封じ込めようとしてきた。早期の発見と隔離は、習近平・国家主席(共産党総書記)が率いる政権の看板政策であるゼロコロナ政策の柱だった。春先に筆者も、自宅マンションで感染者が出たという理由でとつじょ部屋を封鎖され、2週間のあいだ閉じ込められた経験がある。 

 12月7日に打ち出された対策の緩和が、中国に住む人たちの生活を劇的に変えたのだ。 

 無症状や軽症の感染者について、医療機関や指定施設で隔離することを義務づけていたのをやめ、自宅での隔離を認めた。PCR検査は行政区単位といった大規模な全員検査をなくし、範囲を縮小した。公的な施設に入る時や公共交通機関で求められていた陰性証明の提示は、一部を除いていらなくなった。 

■市民生活を犠牲に 

 中国では2020年はじめに湖北省武漢から拡大したコロナ感染が収束した後、諸外国と比べて感染者が格段に少ない状況でも、市民生活を犠牲にする強権的な手法がとられ続けた。 

 都市をまたいで移動した市民を追跡するスマートフォンのアプリで、行動履歴を当局に把握される。プライバシーなどお構いなし。滞在した都市が自動的に表示される仕組みで、直近の訪問先が感染リスクの高い地域だとみなされると行動が制限され、出張や旅行を妨げられた。 

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