(c)ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会
 (c)ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会

中川:私はすごくせっかちで、下描きしてペン入れする工程がじれったくなっちゃうんです。

伊藤:やっぱり天才型なんですね。モーツァルトがいきなり楽譜に清書をしちゃうような感じかもしれない。

■伊藤作品ベスト5は?

──生粋の伊藤潤二ファンである中川さんに「伊藤作品ベスト5」を聞いてみると──?

中川:え~! 難しい! 繰り返し読んでいたのは『潰談』『グリセリド』『血をすする闇』。『顔面固定』は主人公が地下室で博士にトゲのついた器具を耳にさし込まれて固定される。そしたら「ちょっと待っていて」と博士がどこかに行っちゃって、さらに死んじゃって。「誰も助けてくれない! うわあっ!」となっていくのがおもしろくて。

伊藤:あれは実体験からはじまっているんです。私、若い頃にあごの手術をしたんですけど、口腔外科でレントゲンを撮るために、まさにああいう器具で固定されたんですよ。耳に「ガチャン」とされたとき「いまこの人がいなくなったらどうすればいいのか?」と思いました。

中川:そういう体験がすべて漫画の糧になっていくんですね。生粋の好きとしてベスト1はやっぱり『よん&むー』かな。あと『轟音』『首吊り気球』や『ファッションモデル』の淵さんも好きだし、選べないです! 『長い夢』も怖い。私、悪夢を見ることが多くて「この夢、永遠に終わらないんじゃないか?」という恐怖がすごく理解できます。

伊藤:私もよく悪夢を見るんです。トイレに行きたいのになくて、あっても汚くてできなくて別のトイレを延々と探すような夢。イヤでたまらないんですが、そういう感覚が作品に転換されていくのかもしれません。

中川:伊藤先生はいつも本当にお優しくてニコニコしながら、そういう怖い話をされるところが、たまりませんね(笑)。

(構成/フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2022年12月19日号