SNS上には無数の言葉が飛び交う。書き言葉は話し言葉と比べ、意図を正しく伝えるのが難しい側面がある(photo 写真映像部・上田泰世)
SNS上には無数の言葉が飛び交う。書き言葉は話し言葉と比べ、意図を正しく伝えるのが難しい側面がある(photo 写真映像部・上田泰世)

 SNSで誰でも気軽に発信できるようになった分、言葉の扱いが難しくなっている。読み手に意図がうまく伝わらず、批判が集まることも決して珍しいことではない。書き手はSNS上で何を意識すべきなのか。2022年12月12日号の記事を紹介する。

【グラフ】直近3年間のSNS上の炎上案件数はこちら

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 何げなく書いた一文に、コメントやリツイートなどを知らせる反応が止まらなくなった。多くが辛辣な言葉だった。神奈川県の会社員男性(35)は5年ほど前、実名で運用していたツイッターで「炎上」を経験した。

<勝ったーーー! ■■選手のホームランよかった。それと△△選手、ありがとう(笑顔の絵文字)>

 応援するプロ野球チームが勝ち、うれしくて投稿した文だった。ただ、男性は無安打に終わった相手主力選手の名前を出し、「ありがとう」と書いていた。

「その選手をあざけったわけでも、揶揄したかったわけでもないんです。超有名選手ですがこの日初めて生でプレーを観られ、よかったと思って書いた単なる独り言だったのですが……」

 男性のアカウントはフォロワー数150人程度で、普段の投稿につく反応はほとんどが1桁台。自分の思ったことをただ書き残しておくためにツイッターを使っていた。しかし、このときは相手チームのファンが批判的なコメントをつけてリツイートしたことから一気に広まり、100件近いコメントがついた。はじめは「相手チームへの敬意に欠ける」といった批判が中心だった。ただ男性のアカウントが実名で、名前を検索すると勤務先もわかったことから、個人攻撃・人格攻撃のようなコメントもされるようになったという。

「確かに、字面だけを見たら相手チームの選手をバカにしていると思われるのもわかる気がします。今は、誰も読んでいないと思ってもできる限り意図が伝わるような文を心がけています」

 男性の事例は炎上の規模としてはさほど大きなものではない。しかし、本人にとっては「ショックが大きかった」という。

■増加する炎上事例

 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所が発表した「デジタル・クライシス白書2022」によると、21年の1年間にSNS上で100件以上言及された炎上事例は1766件。20年から約25%増加した。炎上の原因として最も多いのは「非常識な発言・行為、デリカシーのない内容・発言・行為」で37.2%を占め、「特定の層を不快にさせるような内容・発言・行為」が続く。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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