著作『傲慢と善良』、『できることならスティードで』がそれぞれ文庫化した辻村深月さんと加藤シゲアキさん。作品の魅力と文庫ならではの楽しみを語り合った。AERA2022年11月28日号の記事を紹介する。
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──人気小説を次々と世に送り出す辻村深月さんと、アイドルでありながら作家としても活躍する加藤シゲアキさん。二人が著作の文庫化に伴い、作品の作り手として、そしてお互いの作品の読み手として、じっくり語り合った。共感に次ぐ共感で盛り上がった対談とは──。
辻村深月(以下、辻村):雑誌連載、単行本化を経て文庫化する時って、いよいよこの小説が自分の手を離れるんだという緊張感があると同時に、文庫は長く残るし、広く読まれるという嬉しさもありますよね。
加藤シゲアキ(以下、加藤):今回、『できることならスティードで』は単行本から約2年半後の文庫化なんです。
■書き手としての誠実さ
辻村:『傲慢と善良』は3年半後の文庫化なので、私より1年はやいですね。
加藤:エッセイ集だし、世相の反映もあるので、「はやく出そう」と言われました。
辻村:物理的な移動のある旅だけでなく、時間というものの旅だったり、ちょっとした非日常的な体験だったりもあって、読者としていろんな旅を体験できました。私は、最終章をどう書くか迷ったり考えたりしている文章がすごく好きでした。一冊の本になる時にどういうものを届けたいか深く考えていらして、エッセイの書き手としての加藤さんの誠実さがすごく出ていました。
加藤:本当ですか。嬉しいです。
辻村:印象的だったのは、ふたつの別離について書かれた章です。お祖父さんとの別離と、ジャニー喜多川さんとの別離。
加藤:どちらも最初は、書いていいのか迷いがありました。祖父のことを書いたのは、祖父が喜ぶだろうな、という思いがありました。もともと、ブログで祖父が亡くなる前に見舞いに行った話を書いたことがあったんです。その話を完結させることが祖父に対する弔いになるだろうと思いました。亡くなったジャニー喜多川(前)社長については、ジャニーズ事務所に所属していて、書く仕事をしている僕が書かないのも無責任な気がしたんです。(前)社長はものを作る、言葉にするという姿をずっと見せてくれていたから、それに対して作品で返すのが弔いなのかな、と思って。
辻村:個人的な出来事をこの形で読ませてくれるのか、と読者として感激しました。