AERA2022年11月28日号より
AERA2022年11月28日号より

 多くの地方議会が議員の連絡先住所を公開している。自宅を公にするケースも多いが、付きまといの被害にあった議員もいる。公開は本当に必要なのか。AERA 2022年11月28日号の記事を紹介する。

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 連絡先と住所は議会ホームページや議会だよりで公開します──。

 今年5月に行われた宮城県石巻市議会議員選挙で初当選した都甲マリ子さん(37)は、議会事務局に提出する書類のなかにそんな一文を見つけ、手を止めた。

 石巻市議会のホームページを見ると、「市議会議員名簿」として顔写真付きの一覧があり、連絡先住所が番地や部屋番号まで掲載されている。この書類に書き込んだ自宅の住所がそのまま掲載される仕組みだと、このときに気がついたという。

「ホームページに連絡先住所が掲載されているのは知っていました。ただ、全国的には公開していない自治体や議員もいるし、自宅以外を掲載しているケースも多くあります。どう対応するか選べるだろうと思っていたのですが……。すぐ対処しなければと思いました」(都甲さん)

 都甲さんは去年、10年近く前に交際していた男性からストーカー被害に遭っている。ある日突然連絡があり、それに返信するとメールやSNSで大量のメッセージが来るようになった。連絡しないよう伝えてブロックしても、別のアカウントから次々に届いた。その数は多い日で1日30通以上に。アダルト掲示板に電話番号が書き込まれ、いたずら電話が殺到するようになったことで警察に相談した。2カ月ほどして、元交際相手はストーカー規制法違反で逮捕された。1年間の接近禁止命令も出た。

■連絡手段は他にもある

「いわば私が原因で逮捕されることになったので、逆恨みされているだろうと思います。選挙に出て議員になったことも相当相手を刺激しているかもしれない。自宅の住所を広く公開するのは大きなリスクだと考え、すぐに議会事務局に相談しました」

 議会事務局によると、「自宅の住所を公開したくない」との申し出は少なくとも近年例がなく、慣習として住所の掲載を続けてきたという。都甲さんからの申し出によって対応を検討、当初は住所の代わりに「文書などを送付される場合は、議会事務局宛に送付してください」との一文を記載した。今月からは、夫の親類宅を仮の連絡先として掲載しているという。

「直接言われることはありませんでしたが、住所を公開しないことに対して疑問に思っている方がいるという話は聞こえてきました。確かに市議は市民と密に接する仕事ですが、連絡を取る手段は多くあります。一律で自宅の住所を公開する必要はないだろうと感じています」

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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