中間選挙を前に、米国で「内戦」という言葉が広がっている。『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む』(朝日新聞出版)の著者が、緊張が高まっているアメリカ社会をリポートする。AERA 2022年10月31日号の記事を紹介する。(前後編の前編)
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まるで、内戦状態の国のようだ──。
米国で初めて「内戦」を意識したのは、大統領選挙を控えた2020年秋のことだった。筆者はこのころ、ペンシルベニア州南部の小都市ヨークに住みながら、選挙を前にした米国の足元を取材していた。
米国では都市部は民主党支持、地方は共和党支持という傾向が年々加速している。選挙の時期になるとそのすみ分けがはっきりわかるのが、家の庭先に設置する支持候補の看板「ヤードサイン」だ。
民主党が圧倒的に強いヨーク市内は、民主党候補バイデン氏の看板一色だった。ヨーク市を出て周辺の郊外地域に入ると、共和党候補トランプ氏のヤードサインも交じる。緩衝地帯のように両者が混在する郊外地域を過ぎると、やがてトウモロコシ畑が広がる農村地域に入る。ここからはトランプ氏のヤードサイン一色だ。トランプ氏の名前を大書した旗を掲げる家も多い。
ペンシルベニア州は、大統領選挙や中間選挙で大きな注目を集める激戦州だが、面積だけ見れば共和党が優勢の地域が大半を占める。
有権者の投票行動を、共和党のシンボルカラーである赤と民主党のシンボルカラーの青で色分けした地図をみると、広大な赤い海のなかに、小さな島のように青い都市が点在している。
内戦状態にある国では、政府の支配下にあるのは都市だけで、外の地域は反政府勢力の勢力圏ということがある。都市と地方で支持がはっきり分かれ、両者が交わらない米国の姿は、こうした内戦状態の国を想起させる。
「社会の中に緊張を感じます。はっきりとした線が引かれているのです」
当時ヨークで出会った、ある住民の言葉だ。
大統領選挙で勝利をしたバイデン氏は、分断された社会の団結を訴えた。だが現実には、分断はさらに深まっている。
■世論調査で米国民の4割 「10年以内の内戦ありうる」
米国では、「The Civil War(内戦)」と言えば、1861年から65年の南北戦争を意味する。それから150年余りを経て、米国ではいま、「第2次内戦」の可能性がささやかれている。