なにが起きても大丈夫な心づもりを!(イラスト:サヲリブラウン)
なにが起きても大丈夫な心づもりを!(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 10月半ば。来年のことを言っても鬼にそこまで笑われなさそうな季節です。今年もあと80日くらいですって。

 さて、「来年のことを言うと鬼が笑う」は、将来なにが起こるかなど誰にもわからないのだから、あれこれ言っても仕方がない、というのが本来の意味だそうです。

 鬼の言いたいことはわかります。去年も今年も、予想外のことが仕事でもプライベートでも起こりましたから。来年もそうなのでしょう。

 だからと言って、鬼だって「無計画に生きろ」と言いたいわけではなかろう。思うに、計画や予定を綿密に立て理想を口にするばかりではなく、「なにが起こっても大丈夫な心づもりでいろ!」と言いたいのでは?

 そうありたいと、常々私も思っています。大方の人もそうでしょう。ならば、万全の準備こそ必要。でも、それがわからないから不安。いろいろ足りているのか自信がない。

 先日、父親から「ホームセキュリティーシステムに入りたい」と連絡が来ました。聞けば、家に誰もいないときに体調が悪化しても、握れば誰か駆けつけてくれるボタンのようなものがあるのだそう。それで安心するなら安いものですから、契約することにしました。

 我が家の84歳になる父は、健康が一番の関心事です。年齢的に、明日自分の体になにが起こるかわからないから、握れば誰かが来てくれるシステムを採用して解決する。とてもシンプルで、少しうらやましくなりました。

 来年50歳になる私の場合は、もう少し複雑です。握れば誰か来てくれるボタンがあっても、なにを頼めばいいのかわからない。「えっと、私はこれで大丈夫?」とボンヤリした質問くらいしかできません。絶対、鬼に笑われる。

 私は単身ですから、いまのところは気楽です。保険に入っているし、貯金もしているし、友人もおり、家も仕事もある。そう考えると、これでいいかと気が緩んできます。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 子育て介護という、予測不可能な要因がないことが安心につながる世の中ではマズいと思うんですけどね。私だってやがて85歳になりますし、頼る子どもはいません。

 こういうことを考えてしまうのが、10月11月あたり。師走になれば目の前のことに大わらわで、将来を考えているヒマがなくなりますから。その繰り返しなんだろうなあ、これからもずっと。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中。

AERA 2022年10月31日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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