武田教授は、岸田首相が事件からわずか6日後に国葬を行うと表明した背景は、自民党の党是、あるいは悲願である憲法改正や軍事大国化を進めるなど自民党に多大な業績を残した安倍氏を顕彰するためだろうという。しかし、その結果、「行政が歪められた」と批判する。

「国葬の実施に賛否が割れている以上、国会で議論を尽くし、多くの国民が納得した形で実施するかどうか決定することが不可欠。多額の税金が使われるのだからなおさら。行政は国民の意思の信託に基づいて行うべきという前提に立てば、国葬を閣議決定だけで決めたことは、行政が歪められ劣化したといえる」(武田教授)

■反対多い国費の支出

 さらに、国葬反対の理由で多いのは、費用は全額国費から支出される点だ。

 政府は9月6日、国葬にかかる費用は、予備費などから対応し総額で約16億6千万円になるという試算を明らかにした。これについてアンケートでは、「生きている人で困ってる人がたくさんいるのに、死んだ人に莫大なお金を使うなんて」(44歳、小学校教諭、女性)

 など税金の使い方に納得いかないという声が多かった。

 名古屋学院大学の飯島滋明教授(憲法学)は、今回の国葬はお金の使い方に最大の問題があると指摘する。

AERA2022年9月26日号より
AERA2022年9月26日号より

「国葬に税金を使う以上、国民の代表で構成される国会の議決に基づかなければならない。国葬の実施は、憲法83条で定められた『財政民主主義』に明確に反しています。また、予備費は憲法87条で『予見し難い不足に充てるため』に内閣の責任で支出できるとされていますが、主眼は自然災害やコロナなど急を要する事態に備えること。安倍元首相の国葬が急を要したかどうか。そこも含め、国会で議論すべきです」

 飯島教授はさらに、「法の下の平等」を定めた憲法14条の観点から国葬は正当化できないと語る。

「岸田首相は国葬実施の理由に『功績』を挙げています。しかし、一般の市民に功績がないとなぜ言えるのか。例えば、コロナ禍で医療従事者の方は治療の最前線に立ち続けています。こうした人たちは社会にとって非常に有益な働きをしています。それにもかかわらず、安倍元首相だけを特別扱いをする理由があるのか。客観的評価がないのに、特定の人の価値だけが高いとするのは、法の下の平等から正当化できないと思います」

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