「キリンは歩き方と走り方が違う。足の運びなども観察してみて」と多摩動物公園の飼育員・清水勲さん。同園の開園時間は午前9時30分~午後5時。水曜休園(撮影/工藤隆太郎)
「キリンは歩き方と走り方が違う。足の運びなども観察してみて」と多摩動物公園の飼育員・清水勲さん。同園の開園時間は午前9時30分~午後5時。水曜休園(撮影/工藤隆太郎)

 首が長くて動物園で人気のキリンは、実は繊細な動物だ。かつては蹄の伸びすぎで死ぬことも多かったが、近年は蹄のケアで寿命が延びるようになった。飼育方法を進化させる動物園の取り組みを紹介する。AERA 2022年9月19日号より紹介する。

【写真】今年6月に安佐動物公園から多摩動物公園にお嫁に来た「アカリ」

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 きっかけはコロナ禍だった。神奈川県在住の女性、にゃんたろうさん(ハンドルネーム)は気分が落ち込みがちになり、何か新しい趣味をと一眼レフカメラを買った。何を撮ろうかと、小学校の遠足以来になる多摩動物公園(東京都日野市)を訪れた。さまざまな動物を撮って帰宅。写真を見て気づいたのが、

「キリンってこんなに表情豊かなんだ」

 他の動物園へも足を運ぶようになり、キリンにも性格がいろいろあると気づいた。特にお気に入りの野毛山動物園(横浜市)の「そら」と宇都宮動物園(宇都宮市)の「テリー」は、人工保育で育ったこともあり人懐こい。「そらくん」と呼ぶとついてきて、ガラスをぺろぺろなめることもあるという。

 8前に多摩で生まれた「ワビスケ」をきっかけにキリンにハマったというのは都内在住の女性、高嶋さん。ちょうどプライベートで人間関係に嫌気がさしていたときだった。

■人にこびないのが魅力

 休みの日は必ず動物園へ。それも開園から閉園まで過ごすようになった。多摩のキリン17頭はすべて顔と名前を見分けられるが、キリンのほうは高嶋さんを覚えていない。でも、「そこが好き」なのだという。普段世話をする飼育員は判別しても、来園者を見分けはしない。もしキリンが自分の顔を覚えてくれたら、期待するし欲が出てしまう。それは嫌なのだ。

「キリンは人間にこびないし、それでいい。そこが犬やペットと違う野生動物の魅力。その子がただ元気でいてくれることが幸せなんです」

 ワビスケは繁殖のため、1歳半で沖縄こどもの国(沖縄県沖縄市)へ引っ越した。以来、年4、5回は会いに行く。他にも多摩で生まれ旅立っていった子たちを見るために全国を回った。北海道・帯広、札幌、盛岡、仙台、石川、愛知・豊橋、兵庫・姫路、高知……。行った先で元気な様子を見て、ホッとした。

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