福之助:僕は本格的に舞台に出始めたのは襲名の年からだったので、右も左もわからず、とりあえず父の後をついていく、という状態でした。ですが、今では自分でこういうことをやってみたい、あの先輩とご一緒したい、と考えられるようになってきました。そこは自分で一番変わったところだと思っています。

歌之助:確かに兄は中学、高校は学校生活が中心。橋之助や僕とは違って、「歌舞伎はこうあるべきだ」みたいな先入観が良い意味でないんです。だからいろんなことができるので、すごくうらやましいです。

福之助:父にも俯瞰で歌舞伎を見られるとは言われます。

歌之助:うちは兄弟3人まったく違いますよね。橋之助と僕は歌舞伎が大好きという共通点はありますが、考え方も好きなジャンルも違う。基本的に3人とも立役ですが、三者三様の立役への憧れがそれぞれにあります。

■歌舞伎役者の「色」

――そんな二人が考える歌舞伎俳優にとって必要なことは?

福之助:結局は、歌舞伎への愛だと思います。僕は歌舞伎が本当に好きなのかわからなかった。だから、大学の4年間やって好きではなく窮屈だったらやめようくらいに思っていました。でも、大学4年のときに猿之助のお兄さんのスーパー歌舞伎II「新版オグリ」に出させていただいたらとても楽しくて。歌舞伎に対する熱量が一気にあがりました。

 あと、歌舞伎役者に必要なのは「色」ですね。歌舞伎は他の演劇と違って同じ作品を年に何回もお客様が見ることがあるから。

歌之助:1年に1回くらい同じ作品が出ますからね。

福之助:だから役者に色がなかったらお客様は「また同じ作品をやっている。見なくていいや」となってしまう。お客様から「あの人のこれを見てみたい」と言われる役者になりたいよね。

歌之助:本当にそう思います。一生歌舞伎をやると決めたからには、兄が言うように歌舞伎を第一に愛することと、情熱が必要なのでは。どんなこともそうですけど、自分がつまらなかったらつまらないものにしかならないですし、情熱を注ぐことが僕たちにとって使命だと思います。

福之助:まさにそれだ! 僕たちが「新選組」に注ぐ愛と情熱をぜひ見に来てください。

(構成/フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2022年8月15-22日合併号