AERA 2022年5月30日号より
AERA 2022年5月30日号より

 障害児を育てる母親には、女性、母親、ケアラーとしての「三重の壁」があると指摘するのは、佛教大学社会福祉学部教授の田中智子さんだ。

「障害のある子の親は、『ケアラートラック』を歩み、ケアと仕事の双方に不全感を長きにわたって抱く。日本では、障害のある子の親を親役割に固定化する『社会的な親役割期待』が強い。意識を変えていくことが大切です」

 厚生労働省の集計では、手助けや見守りが必要な児童を持つ母親の就業率は上昇傾向にはあるが、それらを必要としない母親の就業率と比べて低い。実際、障害児の親の就労継続を危うくする「難所」はいくつも存在する。まず、「小1の壁」。

■放デイの開所時間は、親の就労を前提としてない

 都内の報道機関で働く木瀬真紀さん(38)の長男は小児がんの「網膜芽細胞腫」で、生後すぐ受けた抗がん剤治療と手術の影響で弱視になった。今春、小学生になったが、事前に近所の大規模校を見学すると、児童数が多く、休み時間に廊下に人があふれたら知り合いがどこにいるのかわからず、息子がしんどいだろうと感じた。一方、遠距離の小規模校は児童が少なく、先生の目が届きやすい。そこで小規模校へ入学させることに。片道25分かかり、教育委員会からは安全上、毎日登下校時の親の送迎が必須と言われている。さらに、週1~2回、バスと電車を乗り継ぎ、「弱視通級指導」に通う。同業で共働きの夫と交代で半休を取りながら、通級への付き添いもこなす。

「子の過ごしやすさを取った分、親が付き添う負担は増えた。第一線で働けないジレンマは、普通の子育てより少し大きい感じですね」(木瀬さん)

 2016年に障害者差別解消法が施行され、「合理的配慮」を国や自治体の義務とした。だが実態は地域や学校によって対応に差があり、障害児育児と仕事の両立は難しいのが現状だ。

AERA 2022年5月30日号より
AERA 2022年5月30日号より

 都内の制作会社でフルタイムで働いていた友美さん(44)の長男の幸太くん(11)は、4歳で知的障害はない自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠陥・多動性障害(ADHD)だと診断された。

 癇癪(かんしゃく)もあった。夜は寝ず、朝は起きない。登園できる服を着せ「寝せたまま」保育園に連れていった。年中から幸太くんに加配の保育士がついた。だが、年長の夏休みから登園しぶりが強まり、登園が困難に。職場で期限付きのプロジェクトを統括していた友美さんは、「これ以上、仕事の継続は難しい」と判断。保育園は年長の夏で途中退園し、15年続けてきた仕事を辞めた。

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