金融工学のプロの牛山史朗さん。全自動の資産運用サービス「ウェルスナビ」の<頭脳>として活躍(写真/本人提供)
金融工学のプロの牛山史朗さん。全自動の資産運用サービス「ウェルスナビ」の<頭脳>として活躍(写真/本人提供)

 通称「ロボアド」。コンピューターが膨大なデータを解析し、最適な資産配分の組み合わせを提案するロボアドバイザーは、つみたて運用の味方だ。ロボアドでは日本最大の預かり残高を誇るウェルスナビの執行役員で、ロボアドのアルゴリズムを開発した牛山史朗さんに資産運用の極意を尋ねるとともに、率直な疑問をぶつけた。投資成果を全力で競ったら、勝つのは人間か、AI(人工知能)か?

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「コンピューターと人間がやりとりする様子に夢を感じました」

 AIを活用し、ロボアドの「頭脳」を作った牛山さんは、この道に進んだきっかけを振り返る。牛山さんの専門は金融工学だ。

「経験と勘が生きるといわれる投資の世界に科学を持ち込んだのが金融工学です。分散投資が有利なことは経験的に知られていて、『卵を一つのカゴに盛るな』という格言も有名ですね。

世界のどの市場にどんな割合で投資すればいいかを数学的に研究するようになったのが1950年代。それから急速に伸びた学問です」

 牛山さんは1997年に京都大学工学部に入学し、AI分野を専攻。夢を感じたという。大学院では金融工学を修めた。2003年に三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入り、野村證券を経て、2015年にベンチャー企業だったウェルスナビへ転じた。

「前職の野村證券は待遇もよく、優秀な人材が集まっていて刺激的でした。でも『金融工学を個人のために』という思いが強くなり、飛び出しました。転職直後は収入がダウンしましたが、得意の金融工学で貢献できる新しいステージとして魅力を感じたのです」

 2年前のコロナ・ショックで株価が急落した際、ウェルスナビの顧客の95%は1円も出金しなかった。動画メッセージ、ウェブセミナーの開催などを通じてサポートしたという。

「小学校の先生が『家に帰るまでが遠足』と注意を促すように、ポートフォリオからリターンを得る最後のところまで助ける体制が整っています」

 ウェルスナビは社員の半分がエンジニアやデザイナー。モノ作り集団だ。金融の専門家とITの専門家が同じフロアで働く。NISA(少額投資非課税制度)に対応したロボアドが欲しいという声に応えた「おまかせNISA」も2021年2月にリリースした。

「同じ目標に向かって一つのチームで仕事をするので、新機能の開発や改善などは素早いです」

 金融機関と提携した対面によるサポートとロボアドを組み合わせたハイブリッド型サービスも好評である。

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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