「冬の焼きいも店 ぬくもりの先に」2021年1月22日放送/舞台は茨城県にある昔ながらの焼きいも店。ホクホクの焼きいもを求めてやってくる人たち。そのぬくもりの先に求めるものは何か(写真:NHK提供)
「冬の焼きいも店 ぬくもりの先に」2021年1月22日放送/舞台は茨城県にある昔ながらの焼きいも店。ホクホクの焼きいもを求めてやってくる人たち。そのぬくもりの先に求めるものは何か(写真:NHK提供)

「取材クルーが現場で感じたことを視聴者に追体験してもらいたいんです。ですので、カメラを向けた相手から発せられた言葉をありのままの形で届けるように努めています」

 その姿勢は、今年3月10日正午から3日間にわたり、宮城県名取市の生花店で撮影された「宮城・生花店 あなたを思う春に」(4月15日放送)にも表れている。

石巻の海にガーベラを

 10日午後4時、2輪のガーベラを買い求めにやってきた母娘。11年前の東日本大震災で亡くなった夫の両親のために、石巻の海へ花を手向けるのだという。色鮮やかなガーベラを選んだ理由を聞くと、母親は目に涙を浮かべ、言葉を選びながらこう語る。

「まだ認めたくない気持ちもあるんで。まだどこかにいてくれるんじゃないかという夢みたいな思いは、11年経っても思い続けているところはあります」

 撮影クルーに一礼し、「話せてよかったです。すっきりしました」と生花店を後にする母娘。声の震えやかすかな表情の変化に寄り添う演出は、あたかも自分がそこに居合わせているかのような臨場感を生み出していた。

「取材相手とは現場で初めて会うわけですから、その方がどんな思いを持っているかは当然わかりません。なので、『こういうことを言わせたい』という角度から質問することはありません。ゆっくり解きほぐすように聞いていくので、30分、1時間話し込むこともあります。でも、その中でしか聞けない話もあると思うんですよね」

 撮影場所の選定は、11人の専属ディレクターによる提案制を基本に、NHK地域放送局からの提案で制作することもある。面白そうな場所、興味を引かれる場所に目星をつけ、実際にそこを訪れる人々の世代や性別などをリサーチし、「おそらくこういう展開があるのでは」と想像をめぐらせる。そして「いけるだろう」と判断したら、覚悟を決めて撮影を開始する。だが、毎回順調にいくとは限らない。

昼寝やしいたけ採りも

「すべてガチンコなので、想定から外れてしまうケースもあります。でも、それは必ずしもマイナスではなくて、むしろプラスになることも多い。いずれにせよ大事なのは、現場で起きていることに忠実になることです」

 例えば、茨城にある昔ながらの焼きいも店が舞台の「冬の焼きいも店 ぬくもりの先に」(21年1月22日放送)では、思いのほか気温が暖かかったこともあり、撮影初日の来客数はわずか5組だった。だが、「暇だから」と店主が昼寝をしたり、裏山にしいたけを採りに行ったりする様子を映すことで、地域ならではのゆったりとした時間の流れを表現することができた。

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