サイバースペースでの競争については、ロシアと中国が私たちをはるかにしのいでいると思います。米国はもっとできることがあるはずなのに、それに近いことすらできていません。いろんな意味で、ロシアなどのプロパガンダの方が、私たちの情報よりも有効なのです。

 ただし、核兵器について言えば、プーチンが「ロシア軍の核戦力を含めた抑止力の警戒態勢を引き上げる」と発言したのは、ブラフ以上の何ものでもないと思っています。

■核の脅威はまだない

 その数週間後に、米議会で米諜報(ちょうほう)当局から、年に1度の証言がありました。そこでプーチンが核兵器を使う可能性について当然質問が出ました。

 当局によると、ロシア軍核戦闘力の配列に何の変化も見られない、つまり、ロシアは動いていないということでした。だからプーチンのブラフだと私は思うのです。

 彼が、戦略核兵器を使うことがロシアにとって利につながると思っていたなら、大きな間違いを犯したと思います。自死の遺書にサインしたようなものです。世界は、ロシアの動向を注意深く見守るべきですが、今のところは現実的な脅威ではありません。

 最後に、第3次世界大戦を懸念する声があります。

 一部の人は、冷戦が第3次だったと言い、私たちはそれに勝利しました。だとすれば、次は第4次でしょう。多くのナイーブな人たちが近年話題にしていたのは、国際秩序に基づいたルールという思想です。プーチンはウクライナを侵略し、国際秩序によるルールといった言葉は明らかに理解していなかった、と知って人々は驚きました。

 ウクライナ侵略は悲劇であり、受け入れるべきではありません。

 でも、なぜか人々は、国際秩序によるルールというと、武力を行使しないと思っていたのです。その思想は、時代遅れとなり、とてもとてもナイーブで危険なものです。

 ロシアによる一方的な攻撃は、攻撃している人たちが攻撃している意味をどう考えているかにかかっています。もしプーチンがウクライナ侵略で成功したら、他の(専制)国家もやってみようとするでしょう。

 だから、冒頭にお話しした抑止力は、とても大切な概念なのです。

(構成/ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

AERA 2022年4月25日号より抜粋