熱唱する宮城県内の8高校・高専の生徒たちと、リトグリの3人(前列左から、かれんさん、MAYUさん、アサヒさん)。オンラインでも配信された
熱唱する宮城県内の8高校・高専の生徒たちと、リトグリの3人(前列左から、かれんさん、MAYUさん、アサヒさん)。オンラインでも配信された

 3月24日、高校生らが集う「復興支援音楽祭 歌の絆プロジェクト」が3年ぶりに開催され、「Little Glee Monster(リトルグリーモンスター)」がスペシャルゲストとして登場した。AERA 2022年4月11日号の記事を紹介する。

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 東日本大震災が起こった3月11日、石巻商業高校(宮城県)男声合唱団3年の伊藤創太さん(18)は小学1年生で、授業が終わり校庭で送迎バスを待っていた。体験したことがなかった揺れに驚いた。ライフラインが途絶えるなか、各地から水や食べ物など支援物資が届いた。音楽祭では支援してくれた人たちに、歌を通して感謝の気持ちを伝えたかった。

 合唱団に入ったのは高校2年生のとき。音楽の先生に勧められたのがきっかけだ。同じ目標に向かって練習をし、全員で合わせるので「絆」を深められるのが、合唱の楽しさだという。

 ただ、ここまで大人数での合唱と大勢の人前で歌う機会がなかった。本番前は緊張したと振り返り、こう言った。

「聴いてくれた方々に、元気と感謝の気持ちを届けることができました」

 時代を超えたメロディーと人の心を打つ言葉。変わらない、歌の力だ。

 仙台西高校合唱部3年の丹代(たんだい)康太さん(18)も、そんな力を実感し歌い続けてきた。

「悲しい曲は心が傷ついている人に刺さり、楽しい曲は逆にそういう人を元気づけます。人それぞれが置かれた環境によって届き方が違うのが音楽の醍醐味です」

 合唱を始めたのは中学に入ってから。特に音楽をやりたいと思っていたわけではないが、街中での演奏会では通りかかった人が足を止めて聴いてくれ、終わると拍手が沸いた。自分たちの歌で感動してくれる人がいる。歌の力を肌で感じ、高校でも続けようと思ったという。

 この日は、リトグリの「明日へ」に思いを乗せた。

♪揺らいでまた気づくのは/揺るぎないから──

 このフレーズが心に刺さる。失って初めて気づくものがある、それを気づかせてくれる歌詞だという。

「落ち込んだりした時は、背中を押してくれる曲でもあります」

■引退していても参加

 同校は2年前も音楽祭に参加し、丹代さんもステージに立つはずだった。しかし、音楽祭は中止に。丹代さんはすでに部活動を引退していたが、開催されると聞き、志願して参加を決めた。歌い終えると、こう話した。

「音楽にしかない力を、届けることができました」

 歌は心に残り、心を揺さぶる。未来への原動力ともなる。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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