家が破壊され、瓦礫が散乱していた(Getty Images)
家が破壊され、瓦礫が散乱していた(Getty Images)

 どう納得させるか。カギはアメリカでしょう。「NATO東方拡大にアメリカとしては興味がない」と、密約でも構わないのでプーチンに伝えることです。

的場:私は、ウクライナは中立化するしか生きる道はないと思います。地理的にさまざまな国や民族が行き来し、ときに土足で踏みつけられてきた「ヨーロッパの廊下」のような存在です。ロシアにとってはNATO、EU(欧州連合)との緩衝国家(クッション役を果たす国)でもあります。さらにウクライナを流れるドニエプル川、ドネツ川はロシアへつながり、黒海から入った船はこれらを上ってロシアへ行く。ウクライナがここを「占領」することは難しく、中立化して「開けて」おかないといけないんです。

伊勢崎:そこは国民の意思を超えたところでの「宿命」ですね。ウクライナは緩衝国家を自覚するしかない。西、東、どちらに付くかで、市民が死んではならないのです。日本でも「ウクライナを支持する」として「反戦」を訴えている人がいます。私は違和感がある。悲惨な敗戦を経験した国民なら、なぜ「国家のために死ぬな」と言えないのか。

的場:気になるのは、私たちは西側視点のニュースだけで「悪いロシア」のイメージを作っていることです。おそらく私たちもメディアも、最初から「敵・味方」を分けてしまっている。私は戦争には反対しますが、どちらかを応援することはない。でも多くの国で今、一方的に「ウクライナ支持のために」という視線での報道がなされる。極めて危険なことです。

■南アが棄権した理由

伊勢崎:同感です。プーチンがやっていることは確かにひどい。ただ、「悪玉プーチン」だけに偏ると見えてこないことがある。

 3月2日の国連総会で、ロシア非難決議に棄権した国が35カ国ありました。南アフリカもその一つですが、棄権というより「こういう決議は対話を生まない」と実は明確に反対している。ANC(アフリカ民族会議)議長も務めた故ネルソン・マンデラがアメリカのテロリストリストから除外されたのは2008年のこと。一方で、南アフリカの反人種隔離運動の最大の支援国だったのはソ連。そういう背景はあるでしょう。ただ、一方的な決議は「既にひどい亀裂を生んだ民族対立を修復しない」と、アパルトヘイトを対話で克服した国が表明したのです。日本では報道されませんでした。

 プーチンは悪玉で、ウクライナは善。そんな構図にとらわれ、ロシアを糾弾するだけでは、戦争は長引くだけ。そう思います。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2022年3月21日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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