地下鉄の駅でロシア軍の砲撃を避けるキエフ市民(Getty Images LOS ANGELES TIMES)
地下鉄の駅でロシア軍の砲撃を避けるキエフ市民(Getty Images LOS ANGELES TIMES)

 ロシアのウクライナ侵攻で犠牲者が増え続けている。停戦の糸口はあるのか。AERA 2022年3月21日号で、旧ソ連圏の歴史に詳しい専門家と、紛争解決のプロが意見を交わした。

【写真】ロシア軍の攻撃から逃げる人々や、家が破壊され瓦礫が散乱するウクライナの様子

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 停戦を実現するためにはどうすべきか。旧ソ連圏の歴史に詳しい的場昭弘・神奈川大学副学長と、国連平和維持活動(PKO)で紛争地での武装解除などに関わった伊勢崎賢治・東京外国語大学教授の対談は、歴史的背景まで探りながら多岐に及んだ。

伊勢崎:ロシアの砲撃による原発火災を受けて3月4日に開かれたNATO(北大西洋条約機構)の会合で、ストルテンベルグ事務総長の最初の一声は「NATOは戦争の当事者じゃない」。派兵も飛行禁止区域も「戦闘になるから」設定しないと。軍備支援はするものの、届ける確証のないまま、外野からの「戦え、戦え」という合唱ばかりでウクライナ人だけに戦わせている。非常に歪(いびつ)な構造です。なぜ「停戦交渉」を言わないのか。

的場:ウクライナのゼレンスキー大統領は見誤ったと思います。ロシアが攻めてきても、何らかの手助けが来ると。一方でロシアは、ベラルーシ方面からや(ウクライナ北東部の)ハリコフなどへの攻撃に限定し、ポーランド側の地域は「開けて」います。そこから見えるのは、この攻撃はおそらく条件闘争だということ。(親ロシア派が支配する)ドネツク、ルガンスク両地域の独立を条件とした限定的な戦いだと見ます。

 ところがゼレンスキーのほうはショーをやってしまっている。ぼろぼろの服を着て、追い込まれて大変だという雰囲気を醸し出しながら、民衆には「武器を取って戦え」と。国軍同士なら状況次第で降伏しますが民衆は降伏しませんから、どんどん犠牲者が増えてしまう。民衆には絶対に銃を渡しちゃだめなんです。そこを煽(あお)れるのは彼が役者出身だからというのが皮肉な話ですが。

伊勢崎:大事なポイントです。国際人道法では本来、戦闘員と非戦闘員は明確に識別しなければなりません。でもテロ組織の義勇兵など非正規な戦闘員が戦う現代の戦場は、そこが曖昧になり、大量の市民を巻き添えにしている。アフガニスタンを皮切りにアメリカが始めた対テロ戦はその最たるものです。ゼレンスキーは、ウクライナ市民に銃を取れと公に言ってしまいました。これは、無辜の市民を殺しても「戦闘員だった」と言える口実をロシアに与えていること。市民の犠牲が増えるだけです。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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