ロシア軍の攻撃から逃げるため橋を渡る人々(Getty Images)
ロシア軍の攻撃から逃げるため橋を渡る人々(Getty Images)

■交渉を粘り強く見守る

 一日も早く停戦を実現すべきです。停戦とは現場の凍結。帰属問題などは棚上げし、まずは戦いを止めること。ただ、停戦に合意しても「停戦合意破り」がおそらく何度も起きます。粘り強く見守るしかないのです。

 停戦合意とは政治合意。両国の正規軍は原則守るはずですが、問題は、ゼレンスキーが世界に呼びかけている義勇兵など非正規の戦闘員です。正規の指揮命令系統に制御されにくい彼らが現場を混乱させる前に、どう停戦を定着させるかが重要です。

 さらに信頼醸成が進んできた頃合いで、第三者の仲介が意味を持ってきます。今、国連は安全保障理事会が機能不全です。常任理事国の一つが紛争当事者国ですから。だからといって何もできないわけではありません。第2次中東戦争では常任理事国のフランスとイギリスが当事者国でしたので、停戦監視のためのミッションを国連総会で発動し、これが現代のPKOの元祖になったのです。中立の「停戦監視ミッション」を作れる可能性はまだあります。

■ロシアがすべき努力

的場:いつかは停戦、講和条約へと進むことになります。ただ、ロシア側が「自分たちもたくさんの民族による国家であること」を理解しない限り、不安定要因はこの先も続きます。

 ツァー体制(帝政ロシアの専制政治体制)のときも、他の弱小民族を支配して上から押さえつけた。ロシア革命ではそれに対し、民族独立運動とボルシェビキ(ソ連共産党の前身)が共に戦って勝利したのですが、その後また、ロシア共和国の人間が中心となってだんだんと各地域を支配することになった。長い歴史ではあります。でもロシアが「危険要因であることをやめていく努力」をすること。ロシアが世界に認められるために絶対に必要なことだと思います。

伊勢崎:その努力をどう引き出していくかですよね。今後、理想的な決着点があるとしたら、夢に近いものですが、三つあります。一つは、ロシアが既に併合したクリミア半島は諦めても、ドネツク・ルガンスクに関しては独立ではなく「高度な自治」に譲歩させる。例えば国連の「非自治区指定」をして全世界で自治を見守っていく姿勢を示す。

 二つ目はウクライナがNATOにもロシア側のCSTO(集団安全保障条約機構)にも属さない主権の選択をする。三つ目はチェルノブイリを含めた核施設で、例えば「半径何キロ以内は非武装化」と指定し、IAEA(国際原子力機関)を主体に国際監視ミッションを入れる。ロシアが脅威ではないことを少しでも世界に示せれば、ロシアにとってもいいことのはずです。

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