この和平合意を履行しなかったのは、19年に大統領に選出されたゼレンスキー氏です。彼は、自分はミンスク合意に署名していないと言い始めたり、昨年10月に攻撃ドローンを飛ばしたりしたことが、現在に至る緊張状態の発端になっています。米国も今年に入り「ロシアは明日にも侵攻する」といった情報を世界に流し続けました。
プーチン氏には「挑発」と映ったはずです。米国は本来、ロシアとウクライナの間に話し合いの場を設け、ミンスク合意の履行を双方に促すのが役割だったはずです。ロシアが侵攻に踏み切ったのは、この間、話し合いに応じようとしなかったゼレンスキー氏がミンスク合意を履行しないことが明白になったからだと思います。
ロシアが侵攻する前の動きを時系列で見れば、プーチン氏は話し合いを求めたが、それに応じなかったのはゼレンスキー氏です。
ミンスク合意をウクライナが履行していればこんな事態は起きなかった。ゼレンスキー氏が大統領になるまでは散発的な戦闘は起きても、紛争の拡大は抑えられてきましたから。外交は積み重ねです。過去の約束は守るのが基本です。米国が言っていることがすべて善、ロシアは悪という単純な分け方は危険です。
私は今回のロシアの侵攻、力による現状変更、主権侵害は認められるものではないという前提でお話ししています。ただ、ここに至るにはそれなりの経緯がある、ということを知ってもらいたいのです。
プーチン氏の目的は、ウクライナの中立化だと思います。紛争を抱えている国はNATOに入れません。ドネツクやルガンスクで紛争が続いていますから、ウクライナはもともとNATOに加盟できる状況ではありません。プーチン氏が求める中立化は、NATOに加盟しないというのにとどまらない、スイス、オーストリアのようなイメージをしているのではないでしょうか。
私はプーチン氏に4回会ったことがあります。
1999年にキルギスで日本人技師4人が誘拐された事件が起きた直後のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、当時首相だったプーチン氏と初めて面談しました。当時、プーチン氏は恩着せがましく外交カードとして利用することなく、事件の解決に尽力してくれました。強面と言われますが、人情家だと思います。