ウクライナの学生と共に。背景に見えるドンバス・アリーナは市民の誇りだったが、2014年の内戦で閉鎖された(筆者・左)
ウクライナの学生と共に。背景に見えるドンバス・アリーナは市民の誇りだったが、2014年の内戦で閉鎖された(筆者・左)

 ウクライナ学生たちが持ってきたのは、半分減ったウォッカの瓶やら自家製の果実酒やら。店で新たにお酒を購入してきた人は誰もいませんでした。彼らが大事そうに自宅から抱えてきたお酒の瓶には彼らのお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんの影が見え隠れして、我々外国人はとても手を付けることはできず、その夜はなんとも酔えない宴会としてお開きになりました。

 ウクライナ人学生がなぜ外での飲食を控えているかというと、やはり高くつくからです。みな日用品は普通に購入し、バスや電車にも気軽に乗っていましたが、お菓子やお酒などの嗜好品には手を出していませんでした。では嗜好品は物価の高い国から来た外国人専用なのかというとそうでもなく、アクセサリーや毛皮製品などは外国人でも高いと思うくらい高価なのにぜいたくに身に着けているウクライナ人もいました。なんであんなに着飾れるんだろうとウクライナ人学生に素朴な疑問をぶつけると、「あの人たちはマフィアとつながりがあるから」という答えが返ってきました。

 彼らの価値観によると、成功するにはマフィアかそれなりの人間とコネクションを作ることが必要だというのです。コツコツ真面目に働いても立身出世は望めない。銀行に預金もできない。預けたお金がそっくり返ってくることはまずないから。もちろん投資もできないし、そもそも政府が信用できない。こんな国はいずれ出ていきたいが、パスポートが発行されてもビザなしで行ける国はお隣のトルコかポーランドくらいで、ビザ発行にはやっぱりお金とコネクションがいる。

 ウクライナがこうなってしまったのは、すべて旧ソ連から独立したせいだ──というのが、私が滞在していた親ロシア派のドネツクの人々の考えでした。ドネツクは、現在ロシア連邦への編入を求めて独立派が「ドネツク人民共和国」設立を宣言している場所です。今ウクライナの状況を外から──特に日本から見ると、ウクライナはロシアに侵攻されそうで気の毒だとかなぜロシア軍を追い出さないんだと考える人が多いかもしれませんが、ドネツクという都市ではもともと一般市民がロシアへの編入を望んでいたという印象です。

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