新型コロナウイルスが世に出て2年、感染症の専門家として、メディアでも積極的に発信し続けてきた岡田晴恵さん。読者に有益な情報を残したいと出版した著作は382ページにも及ぶ。AERA 2022年1月31日号で取材した。

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 岡田晴恵さんに新型コロナウイルスの一報が入ったのは、2019年末のクリスマスイブだった。あれから2年、秘められていた闘いの日々の記録をまとめた『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』(新潮社)が刊行された。岡田さんは、国の意思決定をねじ曲げる人間の矛盾と組織の歪みを本書で綴っている。

■国民が知るべき情報を

「執筆は丸1年以上かけましたが、一から書いたわけではありません。私は国立感染症研究所で役人として働いていましたし、学者ですから日々の記録を詳細に残す習慣があります。それらは時系列で記録された資料として、後にこのコロナ対策を検証するのに役立ちます。それを信頼できる人と共有して、ディスカッションしていました。報道番組にも出演していますので、資料やデータも残ります。初期原稿で70万字ほどありました」

 国民が知るべき情報、事実を残し、読者に問いかけたい──伝えるべきことは膨大にあったが、泣く泣く削って簡潔にした。

「校了直前に想定通り新たな変異株オミクロンが発生しました。本になって気づいたのですが、あとがきがない。ギリギリまで改稿していたので、あとがきまで気持ちがいかなかった。これまでに130冊ほど本を出していますが、あとがきと謝辞を忘れるなんて……」

 岡田さんと元国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長の田代眞人氏とのやりとりがある。

<ワクチンを途上国へも行きわたらせなければ、どうなる? あっちでも流行っているんだ、当然、新たな変異ウイルスが出るだろう。(略)先進国だけでワクチンを打って、「それで解決」にはならないだろうが!>

 これは田代氏の言葉だが、まさに警告通り。南アフリカで発生したオミクロン株は世界を席巻し、日本も第6波に突入した。

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