西原理恵子さんの最新刊『りえさん手帖2』(毎日新聞出版)『ダーリンは75歳』(小学館)
西原理恵子さんの最新刊『りえさん手帖2』(毎日新聞出版)『ダーリンは75歳』(小学館)

「50代ではじめて外国語にチャレンジして、マスターできる人、何人いるのかな? 50代といえば今まで十分に働いてきた年齢。もう自分に見切りをつけてもいいんじゃないかと。

『断捨離』も流行してましたけど。あ、今もはやってる? どっちでもいいんですけど、一つ捨てても何かまたいらんもんが入ってくるし」

「朝からヨガやるって、マリー・アントワネットくらい生活に余裕あるわけじゃないですか。そういうの、信用しない」

 西原さんは、「ダーリン」こと美容外科医の高須克弥氏の漫画を描いており、ネット上で攻撃されることも多い。

「そんなネットをわざわざ見ない。『見ない力』ってのをやっと身につけました」

 負のエネルギーがネットという匿名空間で噴き出してくるのは、それこそ「キラキラ系」の空気が世の中を覆ってしまった副作用なのかもしれない。 

■上京直後のアパート家賃は3万円

 仕事場を併設した西原さんの自宅は東京都内の閑静な住宅街にある。値段を聞くのもためらうほど立派な建物だった。

 購入資金は西原さんが腕一本で稼いだお金だ。美大進学のために高知県から上京してきたのが19歳のとき。

 最初に住んだ家は、「隣室のおならの音が聞こえる」ほど壁の薄い賃貸アパートで、家賃は3万円程度だった。同じ棟に家族連れも住んでいて、怒鳴り声が昼夜かまわず響いていたという。

 西原さんはそのアパートで男性と同棲していた。相手は無職。貯金もない。炊事も掃除も洗濯もできない。それなのにを拾ってくる。猫が病気になって獣医に診てもらうと、7万円の請求書がきて目をむいた。

■月収30万円オーバーで『「男」捨離』

「料金未払いで電気や水道が止められる直前に、新聞やチラシから日払いのアルバイトを見つけて私が3000円を稼ぎ、急場をしのいでいました。明日は電気が止まるのに、日銭を稼ぐこともできない男でしたから。猫の世話代も私持ち」

 当時、水道を止められても蛇口をゆ~っくりひねると、なぜか水がちょろちょろ出てきた。「貧乏時代のライフハック」と笑いつつ、「タイムマシンがあったらあの頃に戻って、無職の男の横でへらへらしてる自分をぶん殴ってやりたい」。

 転機が訪れたのは月収が30万円を超えたときだ。

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