花江夏樹(はなえ・なつき)/1991年生まれ、声優。2011年デビュー。近年の主な出演作に「進撃の巨人」「鬼滅の刃」、映画「漁港の肉子ちゃん」など。自身のYouTubeチャンネルではゲーム実況動画を配信している[写真 蜷川実花、hair & make up 高橋 優(fringe)、styling 村田友哉(SMB International.)、
costume イオリ、1/F、キャスパージョン、カミナンド]
花江夏樹(はなえ・なつき)/1991年生まれ、声優。2011年デビュー。近年の主な出演作に「進撃の巨人」「鬼滅の刃」、映画「漁港の肉子ちゃん」など。自身のYouTubeチャンネルではゲーム実況動画を配信している[写真 蜷川実花、hair & make up 高橋 優(fringe)、styling 村田友哉(SMB International.)、 costume イオリ、1/F、キャスパージョン、カミナンド]

 声優の仕事を志したのは早く、19歳でデビューした。トップ声優の一人となった今も、柔和だが芯を感じさせる言葉の背景には、ぶれない仕事の哲学がある。AERA 2021年12月6日号に掲載された記事を紹介する。

【写真】蜷川実花が撮った!AERA表紙を美しく飾った花江夏樹

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――2012年、初めて主要キャラクターを演じた「TARITARI」で衝撃を受けた。それが一番の「転機」だという。

 合唱部を舞台にした、歌あり、青春ありの物語だったんですが、それまで自分が持っていた「アニメはこういう演技だ」みたいな固定観念が、覆された作品でした。それまでは「デフォルメしてしっかり喋る」と思っていたんですが、共演した先輩が現実に話しているようなお芝居をされていて、自然で素敵だったんです。

全部覚えておきなさい

 今でもオーディションでは、特に指定がない限り、自分が一番出しやすい、地声に近いトーンで演じるようにしています。受かったら自然に声が出せてやりやすいですし、落ちてしまっても、「そのキャラにもっとぴったりな声の人がいたんだな」とあきらめがつくんです。

 先輩からは、「自分が得意としていることを伸ばしていけば、自ずとできることが広がっていく」とも言われました。そこで、まずは実年齢に近い10代の役をいっぱい練習して、勝負しようと決めました。そうすると、前に出た作品のスタッフの方が「前は純粋な役だったけど、今度はちょっと悪い役をやってみる?」とオファーしてくださったりして、実際に役が広がっていったんです。本当にいい作品に恵まれたと思っています。

――さまざまなキャラクターを演じ分ける極意はどこにあるのだろうか。

 先輩から、「自分が感じた気持ちは引き出しの中に全部入れておいて、いつでも思い出せるよう気をつけて生活をしなさい」とも言われました。朝起きて眠気を感じている時にどのぐらい声がガサついてるか、熱いものをさわった時どのぐらい体がビクッとしてどんな声が出るか、全部覚えておきなさい、と。

 そうやって生活してみると、人は喋る時に結構噛むしつっかえるし、そんなにちゃんと喋らないっていうことがわかるんですよね。

 アニメでは、日常であまり経験しないようなことも起こります。たとえば僕自身に腕が取れたりした経験はないですけど、包丁で指を切った時の痛みを参考に、「この何十倍痛いし、声が出るんだろうな」とか妄想を膨らませて演じるんです。実は、感情の起伏が激しい方がやりやすいんです。「あ~」とか「うん」とかなんでもない一言の方が難しいんですよ。

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