WHO(世界保健機関)はセクシュアルウェルネスを「セクシュアリティーに対して身体的、感情的、精神的、社会的にも健康な状態であること」と定義する。これには「性にまつわる喜び」も含まれる。北欧やドイツ、フランスなどではセクシュアルウェルネスが公衆衛生の一環として、専門の学問領域になっている。だがアミナが話した大学の担当者は「セクシュアル=性的」と解釈したらしい。
東京大学大学院で修士号、英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で公衆衛生学の博士号を取得したアミナは、忿懣(ふんまん)やるかたない表情で言う。
「日本の大学は医学部が強すぎて、公衆衛生が医学の下に置かれています。常に治療が優先されて、予防は後回し。ほとんどの人たちが40歳を過ぎてから不妊治療を始めるのも、性に対する学問的なアプローチが弱いからです。女性が何に悩んでいるかも考えず、『働け、でも産め』。これでは女性の負担が増えるばかり。まずは性をタブー視する風潮から変えていかないと」
そんな思いで立ち上げたのがフェルマータだ。生理の時にはくだけで使える吸収型のショーツ、膣(ちつ)内に挿入するシリコン製の月経カップ、骨盤底筋を鍛える機器──。女性の悩みに応える商品を国内外から選び出し、販売している。通販サイトには、ポップな色合いの外国製バイブレーターが堂々と並んでいる。(敬称略)(ジャーナリスト・大西康之)
※AERA 2021年11月29日号より抜粋