なかじま・きょうこ/1964年、東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒。出版社勤務、フリーライターを経て、2003年に『FUTON』でデビュー。10年『小さいおうち』で直木賞を受賞、20年に『夢見る帝国図書館』で紫式部文学賞など受賞多数(photo/写真部・張溢文)
なかじま・きょうこ/1964年、東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒。出版社勤務、フリーライターを経て、2003年に『FUTON』でデビュー。10年『小さいおうち』で直木賞を受賞、20年に『夢見る帝国図書館』で紫式部文学賞など受賞多数(photo/写真部・張溢文)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

出会って、好きになって、「この人とずっと一緒にいたい」と願う──そんな当たり前の幸せが奪われたのは、彼がスリランカ出身の外国人だったから。中島京子さんによる小説『やさしい』は、シングルマザーのミユキさんの一人娘・マヤの視点から、ミユキさんと8歳年下の青年クマさんの恋愛を入り口に、入管制度と難民社会、日本社会の矛盾など、大きな事件に見舞われた小さな家族を、温かく描いた長編小説。著者の中島さんに、同著にかける思いを聞いた。

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「小説の役割は、これまで聞かれてこなかった声を書くことだと思っています」

 と、中島京子さん(57)。『やさしい猫』は入管問題をテーマに、シングルマザーの「ミユキさん」と年下のスリランカ人の青年「クマさん」の関係を、高校生の娘・マヤの視点から描いた物語だ。映画化された直木賞受賞作『小さいおうち』や『長いお別れ』をはじめ、中島さんは現代の多様な家族のありかたを小説で描いてきた。

「ずっと家族の小説を書いてきて、21世紀の家族小説について考えたとき、国際結婚をとりあげるのは自然なことでした。これまでも小説に日本人しか登場しないのは不自然じゃないか──という気がして、外国人の登場人物を書くことは多かったんです。日常生活でも外国の方に会うし、姉もいとこも国際結婚をしていますから」

 ミユキさんとクマさんは東日本大震災の被災地でボランティアとして出会う。異なる文化を背景にした、恋の行方を読むうちに、読者は2人の幸せを見守るような、応援する気持ちになってくる。だが婚姻届を提出したクマさんは「不法残留」だと警察に逮捕され、東京入国管理局に強制収容されてしまう。

 ニュースで部分的に知っていた、入管のふるまいや複雑なシステムを、読者も物語を通して経験することになる。

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