メカジキデニムは年間約1500本製造されている。コットン100%と同じ強度があり、はき心地は軽く、美しい色落ちが楽しめるという(写真:オイカワデニム提供)
メカジキデニムは年間約1500本製造されている。コットン100%と同じ強度があり、はき心地は軽く、美しい色落ちが楽しめるという(写真:オイカワデニム提供)
オイカワデニム社長の及川洋さん。「吻を焼成した炭を染料に混ぜ、メカジキの魚体を思わせるブルーグレーに染め上げています」(写真:オイカワデニム提供)
オイカワデニム社長の及川洋さん。「吻を焼成した炭を染料に混ぜ、メカジキの魚体を思わせるブルーグレーに染め上げています」(写真:オイカワデニム提供)

 宮城県・気仙沼発の「もの作り」の情熱が前代未聞のプロダクトを生み出した。少しグレーがかった濃紺色、なめらかでコシのある生地は海外からも注目されているという。AERA 2021年9月13日号では、海の恵みをデニムに変えた「オイカワデニム」を取材した。

【写真】オイカワデニム社長の及川洋さん

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 何の変哲もないように見える一本のジーンズが今、デニム愛好家の間で注目を集めている。人気の理由は生地の原料。なんと全体の35%にメカジキ由来の繊維が使われているのだ。

 この“メカジキデニム”を生み出したのは、宮城県のオイカワデニム。気仙沼湾が一望できる高台に工場を構える、従業員20人ほどの小さなメーカーだ。

 技術力の高さに定評がある同社は、1981年の創業以来、数々の有名ブランドのOEMを請け負ってきた。転機は2011年3月。東日本大震災による津波で甚大な被害を受け、高台にある会社は避難所として百数十人の地域住民を受け入れた。

「その中に地元の漁師さんが大勢いて、彼らといろんな話をしました。メカジキの吻(ふん)が大量に廃棄されていることを知ったのもその時です」

■1年かけた糸に大問題

 こう語るのは及川洋社長(47)。吻(ふん)とは、上顎(あご)から剣のように長く突き出た骨のこと。とくに使い道がないため、水揚げの際に船上で切断、そのまま海に廃棄されていた。その総量は気仙沼港だけで年間40トン。

「自分の命を懸けて、海の命を捕ってくるのが漁師さんの仕事。そんな大切な恵みの一部を“必要ない”と捨ててしまうことに違和感を覚えました。何かに再利用できるはず、そうだ、これをデニムにしたらどうだろう?とひらめいたんです」

 翌月、工場再開と同時に前代未聞のプロジェクトが始動した。まず着手したのは糸作り。吻を粉砕し、主成分のリン酸カルシウムを繊維化して綿に織り込む。試行錯誤を経て1年後になんとか糸になり、試作ジーンズができた。だが深刻な問題が起きた。生地から強烈な異臭がしたのだ。及川社長が振り返る。

「めちゃくちゃ焼き魚臭かったんです(笑)。僕の勝手なイメージで、『吻には消臭効果や保湿効果があるはず』と言って関係各所に協力してもらっていたので、大ピンチでした」
 臭いの原因を探るべく宮城大学に分析を依頼した。すると吻の根元に微量のたんぱく質が含まれていることが判明。それが吻を粉砕する際に加える約200度の熱と反応していたのだ。

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