――17歳で俳優デビューしてから、ずっと「周囲に負けたくない」という思いを胸に、がむしゃらに突き進んできた。昨年30歳を迎え、心境に変化はあったのか。

 今も以前と変わらず負けず嫌いで、それも悩みの一つです。自分が理想とするところに行けていないんじゃないかと、すぐ自信をなくしてしまう。悔しさと闘いながら生活しています。でも、だからこそ頑張れるところもある、と自分に言い聞かせています。年を重ねるごとに「負けず嫌いは悪いことではない」と思えるようになってきました。

■特徴ない役をやりたい

 ただ、コロナ禍で劇場に来ることが当たり前じゃなくなった時に舞台に立って感じたんですが、たった一人でも誰かの救いになれていたら、もうそれでいいんだって思えるようになって。負けたくないとか自分の野心は一旦置いておいて、より人を喜ばせたり、元気を与えられる作品をつくりたいと思うようになりました。そこは30歳になって感覚が変わったかな。SNSで反応がダイレクトに伝わってくる時代になって、その反応に救われるようにもなりましたし。

 30代の目標は、スキルアップです。10代、20代は、どちらかというと私生活に重きを置いて、自分なりに刺激的な時間を過ごせたと思っています。ただ、役者を長く続けている人って、知識豊富でさまざまなスキルを持っていると感じています。30代は、私生活をより役者業の向上につながるようにしていかないと、と思っています。

――新たに挑戦したい役について尋ねると、作品ごとにまったく別の表情を見せる「憑依型」俳優ならではの葛藤を明かした。

 これまでいろいろな役に挑戦させていただく中で、どこか役に変化をつけていることに危機感というか、葛藤があって。だから、説明が難しいんですが、あまり特徴のない役をやってみたい。自分の価値観や経験、人柄がにじみ出てしまうような、隠せないような役をやりたいですし、できるようになっていかないと、と思っています。

 例えば、しのぶさんもそうですし、西田敏行さんなど、人柄や生きざまがにじみ出ている俳優に憧れます。役者って、そういう人たちが続けていける仕事なのかな、と。薄っぺらな人間だと、役に対応できない。人生を豊かにしていかないといけないですね。

(ライター・市岡ひかり

AERA 2021年9月6日号