あの日、錚々たるブラック・ミュージシャンがハーレムに集った。映画「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」は全国順次公開中(2021 20th Century Studios. All rights reserved.)
あの日、錚々たるブラック・ミュージシャンがハーレムに集った。映画「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」は全国順次公開中(2021 20th Century Studios. All rights reserved.)
アミール・“クエストラブ”・トンプソン監督がフェスティバルの映像に初めて出合ったのは1997年、東京でだった(Daniel Dorsa)
アミール・“クエストラブ”・トンプソン監督がフェスティバルの映像に初めて出合ったのは1997年、東京でだった(Daniel Dorsa)

 1969年夏、ブラック・ミュージックのスターが集結した幻の音楽フェスがあった。揺れ動く社会の中で正しい道を問うさまは、現代のBLM(Black Lives Matter)運動につながる。AERA 2021年9月6日号から。

【写真】今作で映画監督デビューを飾ったアミール・“クエストラブ”・トンプソン

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 ニューヨーク郊外で伝説のウッドストック・フェスティバルが話題を集めた1969年の夏、同じくニューヨークのハーレムでは、黒人たちの音楽フェスティバルが行われていた。ハーレム・カルチュラル・フェスティバルと呼ばれたその屋外イベントには、スティービー・ワンダー、B・B・キングをはじめ、大物黒人ミュージシャンが続々と出演。コンサートの一部始終は録画されたが、それが公開されることはなく、人々が熱狂したあの夏の日のことは、歴史の中で、まるでなかったことのように消されてしまっていた。

■映画にしてくれないか

 だが、50年以上を経た今、ようやくそれがドキュメンタリー映画「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」としてよみがえった。監督は、今作で映画監督デビューを飾る、ミュージシャンでDJのアミール・“クエストラブ”・トンプソンだ。

 意外にも、彼が初めてこの映像を見たのは東京を訪れた時だ。

「(僕のバンド)ザ・ルーツが初めてツアーで東京に行った97年のことです。僕がソウル好きだと知っている通訳の人がソウル・トレイン・カフェというところに連れて行ってくれ、そこで2分の映像を見せてもらったんです。それは2番目のカメラで撮影された、高いところから見下ろすようなショットで、ハーレム・カルチュラル・フェスティバルのものだとは気づきませんでした。その20年後の2017年に、『こんな映像があるから映画にしてくれないか』とプロデューサーから声がかかったんです。でも、その時ですら、あの時、こんなことが本当に起こっていたとは信じられませんでした」

■本当にあったと証明

 さらに驚いたことに、そうした映像の状態は非常に良かった。

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