桃のように大きな種をひとつだけ持つフルーツのほうは、英語ではstone fruit/drupeと呼びます。日本語訳の「核果」という単語が聞きなれないので『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』を見ると、“液果の一種で,中心部に堅い核をもつ果実”とのこと。では「液果」は何かと調べると、“多肉化した果皮が成熟後も水分を多くもっている果実”とのことでした。果実には単果と複果があり、大部分の果実が属する単果は、乾果で裂開果(カラスノエンドウなど)、乾果で閉果(イネやドングリ)、多肉果(トマトやナシ)の3種類に分けられることも『小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)』の図解で知りました。娘の疑問から派生して、思いがけず夏の自由研究ができました。

 思えば「一般的に、日本語では1種類しか言い方がないのに英語では細かく言い分けるもの」を考えると他にもいろいろでてきます。たとえば、「まる」と「しかく」。日本では円と楕円の違いは小学校に入ってから習うと思いますが、アメリカではゼロ歳児向けの絵本から、円(circle)と楕円(oval)は別のものとして区別されています。正方形(square)と長方形(rectangle)も同様です。英語にも「まる」を表す単語(ellipse)と「しかく」を表す単語(quadrangle)はあるのですが、一般的にはほとんど使われていない数学用語で、日本語とあべこべなのが面白いです。

 もちろんその逆も然りで、たとえば日本語では「たんぽぽ」「綿毛」と基本的に言い分けるふたつを、英語ではまとめて「dandelion」と言います。綿毛に相当することばもあるのですが(dandelion seeds/dandelion fluff/dandelion puff)、あえて綿毛と強調する場合をのぞくと、日本語ほどきっちり区別はしないという印象です。では、たんぽぽと綿毛は植物学的に同じものなのか? 英語の表現が示すように、綿毛というのはたんぽぽの種(seeds)なのか? ──というのはよければ皆さんに調べていただくとして(丸投げ)、英語と日本語の違いを掘り下げると思いもよらぬ、理科や算数科目に関する知識も得られることがわかりました。かつてのわたしは、英語や国語は好きだけど理科や算数は苦手という典型的な文系学生でした。そんな昔の自分に伝えたい。ことばの違いを掘り下げたら、苦手と思っている科目も面白くなるかもしれないよ、と。

〇大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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